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二年目の春・10

翌日には麻帆良祭の後片付けであったが、仮設店舗は再利用の為に雪広グループにて解体するので少女達はそれぞれの部活やクラブの後片付けに行っていた。


「落ち着いたみたいっすね。」

「お陰様でね。」

高畑は教師としてあちこちの後片付けの手伝いをしていたが、少し手が空いたのか公園のベンチで煙草を吸っていると横島が姿を現す。

横島自身はタマモが嫌がるので大分前から禁煙していて、高畑に缶コーヒーを手渡し少し間を開けて座る。


「礼を言ってなかったね。 本当にありがとう。」

「気にせんで下さい。 腹ごなしの運動にもならない作業でしたから。」

ガトウは当分は関西の近衛本家に滞在することになった。

十年の時を埋めるために知らなければいけないこともあるし、何より世界的に見ると彼がアスナ姫を連れて消えた事になっている。

すでにガトウもアスナ姫も亡くなっているのではと見ている者が多い中でガトウが表舞台に姿を表すのは少し不味かった。

元々は連合の捜査官だったので、その辺りの配慮は言わなくても出来る人である。


「横島君以外だと人生を賭けても出来ない作業だろうけどね。 特に僕にはまず無理だろう。」

「高畑先生。 ちょっとお節介を。 その出来ないと思う固定観念が自分の可能性を狭めるので気を付けて下さい。 やれば出来るなんて俺も思いませんけどね。」

高畑は真面目過ぎるのではと横島は少し思う。

悪いことではないが、それが枷となるのはあまり高畑のためにはならない。

尤もナギのように枷が全くないと周りは大変だろうと、横島は自分のことを棚にあげて考えていたが。


「今朝。 アルビレオにも少し会ってきた。 エヴァと君に嫌われたと笑っていたよ。」

「あの人は俺にとっての土偶羅のような人ですから。 赤き翼という光を輝かせる為の闇、影になる人。 利害が一致すればいいですけど。 ああ、性格の悪さは別ですね。 俺の嫌いなタイプっすよ。」

昨日は少し話して横島達は麻帆良に戻っていて、高畑は今日の早朝にさっそく地下のアルビレオに会ったらしい。

まあクルトはすでに檻の中だし、高畑とメガロメセンブリアの関係は悠久の風だけ。

今の高畑ならアルビレオやナギの存在を知らせても問題はないのだが、横島は好きか嫌いかで言えば一番嫌いなタイプの男になる。


「影か。」

「一人で何でも出来る人なんて居ませんよ。 最終日に来たあの野郎も含めて。」

横島自身もアルビレオの存在意義は理解しているが、困ったことに利害が一致しない。

ナギの解放までは一致するが、今度はナギと横島の利害が一致しない可能性が非常に高い。

魔法世界の救済を第一に考えて使うものはなんでも使うであろうナギと、地球側を巻き込んで欲しくない横島の認識の違いは大きかった。

そもそもナギは後始末なんて考えないが、横島は過去の苦い経験から後始末を考えないとろくなことにならないのを理解している。

極論を言えばアシュタロスとの戦いの後始末を失敗した結果が神魔戦争であり、世界の終焉に繋がったのだから。


「ゆっくり考えたらいいっすよ。 時間はまだありますから。」

「ああ。 ありがとう。」

ちょうど缶コーヒーの中身が無くなった頃、タマモと明日菜が横島と高畑を見つけて駆け寄って来た。

高畑はそんな二人の姿に十年の時を感じてしまい、思わず込み上げる感情を抑える。

すぐに会わせてやれる。

それが何より嬉しかった。




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