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二年目の春・9

「お前達には想像も出来ないだろう。 今の横島は強くなったからな。」

話は二度の過去への時間移動や月面での闘いを経てアシュタロスとの最終決戦に差し掛かろうとしていた。


「当時の横島とアシュ様の力の差は百万倍はあっただろう。 アシュ様にとって横島は道端にある小石以下の存在。 それに横島という男は幾つかの条件が重ならなければ真価を発揮しない。」

「百万!?」

「真価?」

「今まで話してきた戦いにおいて横島がその真価を発揮し才能を開花させて来た理由は、大きく分けて二つある。 一つはギリギリまで追い詰められたこと。 そしてもう一つはあの男は自分の為や世界の為などという理由では力を発揮出来ないことだ。」

少女達にとって土偶羅の話は徐々に自分達の知る横島に近づくような、そんな印象だった。

しかし神族が存在する世界の正真正銘の魔王の力には誰もが息を飲むような絶対的なものがあった。


「アシュ様が最後の挑戦を実行される時、部下として生み出したのがルシオラ・ベスパ・パピリオの三姉妹だった。この異空間世界の本来の継承者だ。」

土偶羅は語る。

アシュタロスは全てを理解していたのではないかと。

千年前に生み出したばかりのメフィストに出し抜かれ、今また生み出したばかりの三姉妹を使うことを土偶羅は危険だと進言していたのだ。


「アシュ様の返答はなかった。 それにルシオラ達は純粋過ぎた。 魔族でありながらその精神は下手な神族よりも純粋だった。 ワシが不安になるほどにな。」

アシュタロスの遺産の本来の継承者。

その意味とこの場に彼女達が居ない意味に、何人かの少女達は早くも瞳に涙を浮かべている。

タマモやアナスタシアをよく知る少女達にとって、魔族はそれだけで敵とは思えないのだ。


「そして千年前と同じ事が起きた。 横島と三姉妹のルシオラは互いに惹かれてしまった。」

千年前にメフィストが盗んだ魂の結晶をめぐり、アシュタロスが仕掛けた最後の挑戦。

そこにまたもや絡む横島に少女達は何とも言えない運命のようなものを感じる。

パピリオに捕まり運よく戻って来れたと思った矢先に同じ人間により死地に送り返されるなど、まだ未成年の横島に対する周りの扱いには怒りの表情すら見せていたが。

横島と美神令子の関係は今の自分達と似て非なる関係なんだろうと少女達は思う。

互いに愛情はあったかもしれないが、彼女が横島の中にいる女の人には思えなかった。

しかしルシオラの名が出ると木乃香やアナスタシアなど数人は確信した。

彼女が横島を変えたのだと。

今も横島の心の大きなウェイトを占めている人なんだと。




「ひさしぶりですね。 横島さん。」

一方風呂から上がった横島は更に逃げ出していた。

場所は異空間アジト内にある霊動シミュレーター。

そこで横島は小竜姫のシミュレートと向き合っている。

アシュタロス戦後の横島は妙神山に住んでいて、十年近く小竜姫と同居していた。

元々精神的にあまり強くない令子と違い、他人を見守り導く小竜姫はずっと横島の心の支えであり続けた。

一人になってからも横島は落ち込んだり悩んだりすると、小竜姫のシミュレート体と手合わせすることを過去に何度となくしていたのだ。


「さて、始めましょうか。」

交わす言葉は少ない。

小竜姫が神剣を構えると、横島もまた影から神剣を出して同じく構えた。

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