このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

その三

それから二日後、結局小太郎は横島の家に住む事になった

千鶴は横島に小太郎を預ける事に多少不安なようだったが、木乃香達がほぼ毎日のように横島の家に通ってる事実を知ると一応納得した

どこか浮世離れした感じがある横島に、千鶴は多少不安を感じてるようである



そしてこの日、横島は駅前にあるカフェで一人コーヒーを飲んでいた


「遅くなってすまなかったね」

足早に店内に入って来た高畑が向かいに座ると、横島は高畑と自分の周りに幻術結界を張る

この幻術結界は横島が麻帆良に来てから開発した術だった

魔法使い達が使う認識阻害や人払いの魔法を横島が真似た術である

幻術の応用の一種で、結界内の会話を騙す効果があった


「構わないですよ。 それで先日の報告は聞きましたか?」

さっそく話の本題に入る横島に高畑は複雑そうな表情になり頷く

まさか自分の居ない間に麻帆良に魔族が侵入して、明日菜を人質にされるとは思いもしなかったらしい


「心当たりは?」

「あるにはあるが、実際どこまで関係があるか分からない。 もう気付いてるとは思うが、明日菜君はただの一般人ではない」

明日菜が何故狙われたのか尋ねる横島に、高畑の口は重かった

高畑は横島をある程度信頼しているが、かと言って明日菜の秘密を打ち明けるのには躊躇してしまう


「じゃあ記憶にかけられた封印もソレの絡みですか?」

言葉が途切れた隙に横島が再び尋ねるが、その言葉にはさすがの高畑も顔色が悪くなる


「心配しなくても記憶の中身は見てないですし、封印も解除してません。 ただ多少封印の効果が弱まってますよ」

横島が明日菜の記憶の封印を発見したのはつい先日、ヘルマンとの戦いの後に明日菜や千鶴達を調べた時だった

精神操作系の魔法を警戒した横島が明日菜を調べたら、記憶に魔法の反応があったのだ

結果的に今回と無関係だと解ったためそこには触れなかったが、高畑には確認する必要があったのである


「それは僕が明日菜君にかけた魔法だ。 過去を忘れ幸せにするために……」

この時、高畑はかつての仲間達を思い出していた

高畑の師匠のガトウの最後の願いである明日菜の記憶の封印は、高畑にとっては苦悩と後悔の記憶である

明日菜を連れて逃げることしか出来なかった高畑は、その時の悔しさと後悔を糧に生きて来たのだから


「ならいいんです。 明日菜ちゃんの身辺に関しては麻帆良に居る間は俺が責任を持ちますよ」

高畑の苦悩と後悔の表情に、横島はそれ以上何かを聞く事が出来なかった

誰でも過去に傷の一つや二つはあるが、高畑の過去は横島が共感を感じるほどに厳しいと悟っている

まあ横島としては明日菜の保護者である高畑に狙われた事を伝え、記憶の封印の意味を尋ねたかっただけだから高畑が封印が必要だと判断しているならそれでよかった

基本的に何があろうと明日菜の過去は明日菜のモノだが、現在幸せに生きる明日菜に無理に過去を思い出させる必要もないと思う


(ただ、いつか思い出した時の為の保険は必要かもな)

現状で横島は明日菜の記憶の封印をいじるつもりはないが、いずれ明日菜が自分で思い出した時の為の保険か何かは必要だと考えていた


「悪魔の件は僕も調べてみよう。 明日菜君を頼む」

結局高畑は言葉少なくその場を後にしていく

横島は高畑の表情から明日菜に関してもかなりの警戒が必要だと悟る


「見てただろ土偶羅。 明日菜ちゃんの周辺警戒のレベルは当分維持してくれ」

横島は最後に誰も居ない空間に向かってつぶやくと店を後にしていく


7/45ページ
スキ