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二年目の春・9

「ナギの遺言とはの。」

時が少し遡り二日目の夜。

近右衛門は穂乃香からナギの遺言について聞いてため息を溢していた。

決して悪いことではないし、一目でも会わせてやりたいのは親ならば当然のことだろ


「駄目よ。 会わせたら必ず両親の後を追うわ。 大人ならいい。 でもまだ一桁の子供よ。」

ただ母親でもある穂乃香は、アルビレオとネギを会わせるのは反対だった。

さすがにナギの息子に何か企む事はしないだろうが、守ってもやらないだろう。

悠久の時を生きるアルビレオは、人とは違う価値観で生きているのを穂乃香は理解していた。


「確かに、そうかもしれん。」

一方近右衛門は横島が居ない超鈴音の歴史において、ネギが重要な役割を果たすことを知っている。

一瞬魔法世界の事を思えば教えるのも選択肢としてはアリかもしれないと考えるが、すぐに否定した。

状況が超鈴音の歴史とは違いすぎる。

それに近右衛門自身も魔法世界の為に木乃香や明日菜をネギと会わせるかと問われれば、考えることなく拒否するだろう。

まあ今の木乃香や明日菜がネギと共に魔法世界で歴史の闇に立ち向かうなど有り得ないが。

実のところネギの魔法世界救済案については、土偶羅から別の平行世界の話を聞いていて大筋で理解しているが何か違うだろうとしか思えない。

魔法世界に都合が良すぎる救済案は、魔法史の争いや問題を地球側にばら蒔いただけにも思える。

ネギに至ってはメガロメセンブリアの御輿にされてるようにしか近右衛門には見えない。

いかにネギが天才で魔法世界に影響力があろうとも個人で世の中を動かせる時代ではない。

そこにクルト・ゲーデルの影がちらつくのも近右衛門には胡散臭いとしか思えないのだ。


「アルビレオには見張りが必要よ。」

「それはすでに土偶羅殿がやっておる。」

この世には絶対正義もなければ絶対悪もない。

当たり前のことだが、近右衛門はそれをこの歳になり痛感していた。


「皮肉よね。 世界を救ったナギには家族との平穏さえ許されないなんて。」

「いずれはとは思うがの。」

正直穂乃香も近右衛門も内心ではナギに同情的だ。

しかし世の中の情勢を考えると、どうすることも出来ないのが現実になる。


「魔王と英雄。本質はあまり変わらんのかもしれんの。」

魔王と呼ばれるエヴァと英雄と呼ばれるナギ。

それとそのどちらにも見える横島を見ていると、お伽噺や物語ではないリアルな世の中の難しさを感じてならない。

幼いネギにそんな世の中の生け贄になれとは近右衛門は思えなかった。

もしネギが大人になるまで状況が変わらなく、本人が両親の過去を探しに来たのならば教えてやりたいとは思うが。

騒動の種は尽きないと近右衛門は深いため息を溢していた。


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