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梅雨の終わり

それからしばらくして魔鈴の修行指南が一段落する頃、横島はようやく目を覚ましていた

いつの間にか腕に抱き着くような形で眠っていたパピリオの寝顔に、横島は安らぎのような穏やかな感覚を覚える


(兄妹ってこんな感覚なのかな……)

元々一人っ子として育って来た横島には、兄弟や姉妹に憧れのようなものがあった

幼い頃より銀一と比較されて、何かあるたびに横島ばかりが非難されていた過去

そんな時もしも自分に兄弟や姉妹が居れば、味方になってくれたのではないか?

そんな事を考えた事は一度や二度ではなかった

多くの友達に囲まれていた子供時代が不幸だとは横島自身も思ってないが、心のどこかで自分を理解してくれる兄弟や姉妹に憧れていたのは事実である


そんな横島にとってパピリオは、いつの間にか本当の妹のような感覚だった

自分のせいでルシオラを奪う形になってしまった事に対する罪悪感などもあるが、それ以上にパピリオに対する愛情もある

よくよく考えてみると不思議な縁だと言えなくもない


(俺はお前が大人になるまで生きてられないんだろうな……)

無邪気なパピリオの寝顔に、横島は幸せと共に不安も感じる

この一年ほどでも、パピリオは会うたびに成長していた

その成長を自分はいつまで見守っていられるのだろうと思うと、不安が心に広がっていく


(俺が生きてる間に、せめてお前とベスパが安心して生きられるだけの環境は整えてやるからな)

アシュタロスの部下として三界を敵に回した二人の未来が、横島は不安で仕方なかった

神魔界の事情や常識など全く知らない横島だが、二人の立場が不安定なのは感じている

無力な自分が何かを出来るとは思わないが、それでも横島には二人の未来を守りたいという気持ちが強い


(むにゃむにゃ…… わたちは終わってないでちゅ……)

何やら夢を見てるらしいパピリオはニヤニヤと寝言を呟き、横島は思わず吹き出して笑ってしまう


「アハハッ、お前はきっと幸せになるよ」

心に広がっていた不安がパピリオの寝言で消えてしまう

根本的な解決ではないが、パピリオは今横島の手の届く範囲に居る

その現実を改めて感じた横島は、不思議な安堵感に包まれていた


「いい気持ちだわ」

その頃、愛子は妙神山の庭を一人で散歩していた

最近までは学校から出る事すら珍しかった愛子にとって、自然に囲まれた妙神山は何もかもが新鮮なようだ


「どうかしたのか?」

自然を満喫していた愛子に声をかけたのは、タバコをくわえた老師だった

愛子は気付かなかったが、先程からずっと庭にある木の上でタバコを吸っていたらしい


「いえ、散歩していただけです。 私は学校の妖怪だから、こんな自然に囲まれた場所初めてで」

一瞬驚きの表情を浮かべる愛子だが、相手が老師だとわかると安心したように笑顔を見せる

どうやら昨日のゲームで、老師の存在がだいぶ身近に感じるようになったようだ


「人界も変わったからのう。 わしが若かった頃はみな自然と共に生きておったもんじゃ」

昔を懐かしむような老師の表情に、愛子は思わず見入っていた

風格と言うか威厳と言うかわからないが、老師の神族らしい表情を初めて見た気がする


「本当、横島君と一緒だと飽きないわ」

「それはわしも同感じゃな。 本当に飽きない小僧じゃよ」

本来は出会えるはずのないほど立場の違う二人は、不思議な現状に思わず笑っていた

有り得るはずのない現状を繋いでいる横島が、次にどんな事をするのか二人は楽しみなようである


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