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二年目の春・9

「はなびだ!」

パレードも終わり麻帆良は一日目の中夜祭に突入していた。

パーティーも終わり少女達と合流した横島達は3ーAのクラスメートや人形になったハニワ兵達と共に、横島の店の屋上で中夜祭の花火を見物しながら一日目の打ち上げをしている。

出し物の店舗も一日目は大盛況だったようで、みんなテンションが高い。

周囲にあまり高い建物がない店の屋上は、麻帆良湖であげられる花火がよく見える。


「美味しいね! これどうしたの?」

「ああ、パーティーの余り物だ。 貰って来たんだよ。」

一日目の打ち上げと言うことで料理や飲み物で騒ぐ一同だが、パックに入った高級料理を横島達がパーティー会場から貰って来たらしく好評だ。

支援企業のパーティーだけあって料理も豪華で美味しいが、どちらかと言えばお酒と歓談がメインで帰りがけに余っていたのを横島が貰って来ていた。


「それって恥ずかしくなかった?」

「勿体ないだろ。 それに那波会長も貰ってたぞ。」

「本当に!?」

「ええ。 まあ。」

ビュッフェスタイルなため余った料理が多く、横島は勿体ないからと図々しく持ち帰り出来るか聞いて持ち帰ったのだが。

ホテル側が持ち帰り用にパックに詰めてくれると、呆気に取られる周囲の人々の中で、千鶴の祖母の千鶴子が横島に続きお願いすると言い出し持ち帰っていた。

那波重工の会長がそんな行動をした結果、持ち帰ってもいいのだと理解した人が多いようで、その後は年配者を中心にお土産にと余った料理を持ち帰る人が続出している。

麻帆良学園が現在の体制になり約二十年。

支援企業のパーティーは毎年あったが、余った料理を持ち帰りたいと言い出したのは横島が初めてであった。

一緒に居たあやかと夕映は呆気にとられて少し恥ずかしそうにしていたが、年配者を中心に賛同者が出たことで驚いたのが本音だ。

まあ千鶴子に関してはあのままだと横島が浮いて非常識に見えてしまうので、助け船を出す形で自分も持ち帰りをすると言い出したのだが。

しかし千鶴子は元々は町工場の家庭に生まれ庶民として育ち、麻帆良学園に関しても両親が苦労して入れてくれた苦労人だった。

ある意味横島の気持ちを理解して賛同したのも確かで、変に見栄を張らない自然体な横島を評価していることもある。


「お婆さまは無駄な見栄を張るのは、あまり好みませんから。」

「確かに捨てちゃうの勿体ないよね! こんなに美味しいのに!」

実際戦後の混乱期や高度経済成長以前の生活を知る者は、持ち帰っていいなら持ち帰りたいと考えた人はそれなりに居た。

別に金持ちや会社の経営者が全て同じな訳ではなく、庶民的な人間もそれなりに居るのが実情だった。

まあ誰もが言い出さないことを平気で言い出したのが、ある意味横島らしいのかもしれない。


「あー! 私の海老食べた!」

「ちょっと、お肉食べ過ぎ!」

少女達は自分達から恥ずかしくて貰えないなと考えながらも、美味しい物は美味しいと争うように持ち帰った料理を和気あいあいと食べて一日目の夜を楽しむ事になる。


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