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二年目の春・9

「よく似合うじゃないか。」

「本当っすね。」

夕映の着替えは一時間ほど掛かった。

と言っても大半は夕映が着れるサイズのドレスを届けてもらう為の時間で、四十分程でドレスが手に入る事に横島は驚いていた。

ちなみに夕映の着たドレスは、雪広姉妹が小学生の頃に着たものであることは秘密だったりする。


「若いっていいわね。」

薄いブルーのカクテルドレスを着た夕映は、いつもとの違いに少し戸惑ってる感じだった。

薄く化粧もしていて、アクセサリー類もやり過ぎない程度に付けている。

慣れないドレスと化粧に、夕映は借りてきた猫のように大人しく少し恥ずかしそうにしていた。



時間はちょうどパーティーが始まる頃になり、横島と夕映は雪広家の面々や穂乃香より一足先に会場に入る事にする。


「写真撮って、お父さんとかお母さんに見せてやるか?」

「恥ずかしいですよ。 それに勉強するために麻帆良学園に通ってるのに、何をしてるんだと怒られます。」

「怒られることはないだろ。」

「そういう父なのですよ。」

まだ女性としての美しさより幼さが勝る夕映であるが、ドレス姿はなかなか絵になる。

横島はちょっと気を利かせたつもりで写真でもと語るが、夕映は困った表情で断った。

相変わらず父親との関係は微妙らしい。


「結構混んでるな。」

会場にはすでに多くの支援企業の関係者が集まり、パーティーが始まるのを待っていた。


「やっと来ましたわね。」

「あやかちゃんと、土偶羅か。」

「人前でその名を呼ぶんじゃない。」

「おっと、悪い悪い。」

横島と夕映はあまり目立たぬように会場の端で特に何かする訳でもなく立っていると、あやかと一緒に土偶羅の分体である芦優太郎が来る。

ついいつもの感覚で土偶羅と呼んだ横島に、芦優太郎とあやかと夕映はため息混じりに呆れた表情をした。

別に口が軽い訳ではないが、常人ではありえないとこでミスをしたり抜けているのが、やはり横島という男だった。


「あら、綾瀬さんのそのドレス……」

「ああ、さっき雪広会長に挨拶に行ったら、あやかちゃんのお母さんに着替えなきゃ駄目だって言われてな。」

「なるほど。 皆さん着飾って来ますから。」

あやかはもちろんドレスを着ていて、こちらは着なれた様子で一分の隙もない。

夕映のドレスにあやかはなんとなく事情を察したようで、クスクスと笑ってしまった。


「私は制服でいいと思うのですが。」

「余計に目立ちますわよ。中等部や高等部の制服で来る人居ませんもの。特に麻帆良祭のパーティーは。」

着なれないドレスに落ち着かない夕映だが、パーティー会場は半ばコスプレのように派手な女性も居たりする程だが、制服のような堅苦しい服を着てる人は居ない。

このパーティーは支援企業のパーティーだが、外ではコスプレ姿が当たり前のお祭り騒ぎであり、パーティー自体も決して堅苦しくはない物のようだ。


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