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二年目の春・9

パーティー会場は、今年も日本でも有数の歴史を誇る麻帆良ホテルだった。

この日は麻帆良祭ということもあり、ホテルと周辺は混雑している。


「実は部屋を取ってるんだ。 なんて台詞言ってみたいな。」

「言った事ないんですか?」

「俺はないなぁ。 親父は言ったことあるみたいだけど。 そもそもホテルで女性と食事ってのが無いからな。」

一足先に来ている雪広家の面々に挨拶に行くために、エレベーターでホテルの上の階に行くが、横島は突然妙な事を言い出し夕映を驚かせる。

そんな一昔前のドラマじゃあるまいしと思う夕映だが、気になるらしくそれとなく過去を尋ねてみるが、横島は苦笑いを浮かべてないと否定していた。

きっと横島はモテたと思うが、今一つ上手くいかなかったんだろうなと夕映はなんとなく理解する。


「女性の知り合いとか、友人は居たのでしょう?」

「そりゃあな。 ただデートとかはあんまりしたことないぞ。」

「では一緒に遊ぶ時とかは?」

「うん? 学生の頃は金無かったからな。 バイトばっかりしてたよ。」

どうしても今の横島から過去の横島を推測すると、理解出来ない部分がある。

何か切っ掛けがあり変わったのかもしれないと感じるが、流石にそれを露骨に聞けずに、少し懐かしそうに昔話を語る横島の横顔を夕映眺めていた。

ちょっと胸の奥をモヤモヤさせながら。


「なんかさ。こう親しくはなるけど、恋愛とは違う関係なんだと思う。」

「横島さんには、それ以上に好きな人が居たのでは? もしくはそれ以上の恋愛でもしたとか。」

「そりゃあ、俺だって恋愛の一つくらいはな。」

自分で聞いておきながら夕映は胸の鼓動が高なり、過去に恋愛をしたと認めた横島に軽いショックを受けてしまう。

夕映だけではない。

周りの女性陣は少なからず、横島には忘れられない女性が居るのではと感じる瞬間がある。

一体どんな女性で横島はその人をどう愛したのか、知りたいような知りたくないような。

複雑な心境だった。


「忘れられないのですか?」

「忘れられないっつうか、忘れる気はないな。 大切な事だし。 それは夕映ちゃんの事だって同じだぞ。 一緒に時を過ごした事は忘れる気はない。 この先、どうなろうとな。」

ただ横島はそんな夕映の心境に気付かぬまま、過去を忘れる気はないと語り、それは夕映の事も同じだと当たり前のように言い切る。

夕映はこの瞬間に顔を真っ赤にしていたが、もちろん横島はそんな意味で語ったつもりはなく夕映も理解している。

しかし今も横島の心に居る誰かと同じく、忘れる気はないと言われて悪い気はしなかった。

そして理解した。

横島という男は女性に対して必要以上に純粋で、それでいてやはりどっかずれているんだと。

だが夕映はそれを教えてやる気はなかった。

これ以上、周りに女を増やされるのは本当に嫌なのだ。

いつの日か、横島が幸せになるならば……

そう思いつつも、ずっと側に居られたらとも願ってしまう。

乙女心は複雑だった。

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