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二年目の春・9

さて店を離れた超鈴音は、混み合う雑踏の中で世界樹を見上げていた。

本来ならば強制認識魔法と麻帆良武道会の準備をするはずが、全ての予定が無くなり彼女にしては少し暇だった。

無論所属サークルのイベントや出し物に協力したり、超包子単独の店舗を手伝ったりとやることがない訳ではないが。


「やあ、超君じゃないか。 一人かい?」

「ああ、高畑先生カ。」

未練がある訳ではないが、もし計画を実行したらどうなったかは少し気になる。

そんな超鈴音の姿を偶然見つけた高畑が声を掛けると、二人はどちらからともなくゆっくり歩き出していた。


「忙しかったらカシオペア使うといいネ。 この期間しか使えないけど優れものヨ。」

「気持ちだけ貰っておくよ。 時空間を乱してはいけない。 それが僕らの答えだ。 時間と世界の流れは、君が考えてるよりも繊細で複雑だと考えてる。 僕らは今ある時間を精一杯使う事で生きていくつもりだ。 君から見ると頭が固いと見えるかもしれないけどね。」

数多の人の笑顔と喜びに満ちた町で、二人は少しだけ周りとは違う空気を纏っている。

それに気付く者は少なくとも周りには居ないだろう。

雑踏の中にかき消されるようなその会話も、誰の耳にも残ることなく消えていくはずだ。


「いや、人としては立派だと思うヨ。 一人の研究者としてはちょっぴり残念だけどネ。」

「解明したいかい? 時間と世界の関係を。 超君ならいずれその答えに辿り着けるかもしれないね。」

超鈴音の最大の切り札であった懐中時計型渡航機カシオペア。

未練はないものの、このまま歴史の狭間に消し去るのは、少し抵抗感があるらしい。


「焦らないことだ。 これは僕からのアドバイスだ。 焦りは全てを台無しにする。 過去も積み重ねた努力も決して消えないんだ。 もちろん君のカシオペアもね。」

「クルト・ゲーデルの逮捕も焦った結果カ?」

「それもあるだろうね。 ただクルトは向こうの人達を信じて居なかった。 僕はまだ信じてるよ。」

「確率はかなり低いはずヨ。」

「そうだね。 それは理解する。 ただ、確率や常識を越える事は、時としてあることだ。 僕はそんな現場をこの目で何度も見てきた。 超君。 世界は君が思う以上に複雑で面白いよ。 探してみるといい。 君の常識を破壊してくれるモノを。 真っ当な方法でなら、僕も学園長も否定しないよ。」

決断はしたが僅かな未練を見せる超鈴音に、高畑は教室でいつも見せるような、優しい笑みで超鈴音の未練を次なる原動力に変えるべく言葉をかける。

少し似てるかもしれないと高畑は心の中で思う。

焦り信じられずに人の道を踏み外した友人に。

それ故に超鈴音のこの先を案じてしまう。


「超君は誰よりも優秀だ。 歴史を知りカシオペアがあるとしても、同じことは僕にも出来ないだろう。 ただし、君は一人じゃない。 信じる事から始めて欲しい。 君を信じている人達からでいいからね。」

「一つ聞いていいかナ?」

「なんだい?」

「高畑先生を変えたのは、横島さんカナ?」

「……そうとも言えるし、そうでないとも言える。 横島君だけじゃない。 超君やクラスのみんなにも教わった事がある。 それにタマモ君にも大切な事を教わった。 一つ一つは当たり前の日常の積み重ねの結果だと思う。 まあ、横島君は特殊だし彼に教わった事が多いのは事実だけどね。」

高畑は変わった。

心からそう思う超鈴音は、以前から気になっていたその原因について単刀直入に問い掛けていた。

横島が何かをした確証はないし、気にしすぎたと結論を出したことも間違いない。

ただし横島自身が何かしなくても、周りに与えた影響は大きいのは明らかだった。


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