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二年目の春・9

クルト・ゲーデル逮捕。

その報道は魔法世界で加熱していた。

メガロメセンブリア当局は赤き翼とは無関係な犯罪容疑だと火消しに躍起になるが、クーデターというのがまた微妙にその意味を考えさせる物になるので加熱している。

クルト自身は元老院では疎まれつつも、それでも一般的には将来を期待されメガロメセンブリアを背負うような政治家になると見られていた。

そんなクルトが、何故クーデターをと考えるのは自然な事だろう。

しかし、そこで真実にたどり着くような真摯な報道はなく、スキャンダラスな政治ショーのような、一方的で勝手な憶測ばかりの内容だった。

視聴率こそ正義であり、報道の自由という金看板を悪用した情報加工がまかり通る現代社会のマスコミの問題が、メガロメセンブリアにも蔓延っている。


「どんな理想があったか知らないが、クーデターなんて前時代的な。」

「法を守れない者が、法を決める政治家になるなんて駄目だろう。 あいつを当選させた市民の罪は大きい。」

「サムライマスターのインタビューでも言ってたが、赤き翼から離脱したんだろ? 元々野心の強い奴だったんじゃないか?」

「赤き翼自体、民主的な活動や組織じゃないからな。 少数の個人の意志が戦争を止めたのは立派だけど、やることが変わればこんなことも起きるだろうさ。 個人の意志が国家を越えたんだから。」

メガロメセンブリア市民の声はクルトに批判的な者が大半で、擁護する意見は多くない。

何より政治家という国の代表が言論ではなく、力によって国を動かそうとしたのはどう考えても評価出来ない。

そして詠春が否定してメガロメセンブリア当局から元老院までもが否定しても、クルトと赤き翼を完全に切り離して考えるられない者も居て、何かしらの原因的な影響はあったのだろうと見る者もそれなりに居た。

まあメガロメセンブリア自体、内部ではともかく外部や連合を構成する国家に対しては、かなり武力を用いた無言の圧力を掛けている。

特に民主的な独立を望む地域や構成国を、力で押さえ付けているので他人事ではないが、メガロメセンブリア市民とすればそちらはあまり見ない。

結局メガロメセンブリア市民は毎日当たり前のように流れていく情報の一つとして、クルトの逮捕を受け止めるが。

それにより日常が変化する訳でもなく、時が過ぎるに従い何も感じなくなるだろう。

一部の魔法世界の秘密を知る者やクルト個人を知る者は、そこまでして人々を救おうとしたクルトに複雑な思いを持つが、クルトほど実行力のある者は僅かだった。

悠久の風のように出来る事からやろうと、努力を重ねてる事も忘れてはならないが。

しかし、そんなクルトや悠久の風の思いが人々に理解される様子は今のところなかった。


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