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二年目の春・9

クルト・ゲーデル逮捕の報道は、すぐに魔法世界と地球の二つの世界を駆け巡った。

メガロメセンブリア当局は正式な発表は後日としながらも、その報道を認めクルト・ゲーデルには数々の容疑があることを明らかとする。

ただしこの際に当局はクルト・ゲーデル関連の容疑には、赤き翼及び近衛詠春と高畑・T・タカミチは無関係であることを早々に明言していて、あくまでもメガロメセンブリア内の容疑であることを報道官が明らかとしていた。

この発表はもちろん悠久の風の根回しと働きかけが影響しているが、今もなお根強い人気がある赤き翼と無関係だとすることで、ヘラス帝国や第三国の介入を阻止し、赤き翼の生き残りである詠春や高畑にも介入させたくないという意思の現れでもある。


「参ったよ。 当分電話は使えないね。」

高畑がその知らせを受けたのは、まだ夜明け前の深夜だった。

高畑のコメントを求めるメガロメセンブリアのマスコミからの電話や、クルト一派から助けを求める電話で自宅の電話も携帯電話も鳴り止まなくなってしまう。

流石に対応しきれなくなったようで、自宅の電話はコードを抜き携帯電話は電源を切っているらしい。

おかげですっかり寝れなくなった高畑は、朝からこの日の限定販売のスイーツを作っていた横島の店に来ていた。


「魔法世界と旧世界は相互に理解し、よき隣人として信頼関係を築くべきだって、エレーヌさんがクルト・ゲーデルに言ってましたよ。凄い人っすね。」

「代表が? らしいな。」

横島も朝起きた時に土偶羅から報告があり、クルトとエレーヌと対峙から逮捕まで映像として見たが、本物の立派な魔法使いというのを初めて見た気がした。

ただ理想を語るばかりでもなければ、一方的な押し付けのような救済でもない。

実際クルトの問題は悠久の風が動かなければ、より深刻な事態になっていたのは明らかだろう。


「クルト・ゲーデルのやろうとした事、理解しますけどね。」

正直なところ横島はクルトの逮捕にホッとしたが、素直に喜べる心境でもない。

横島自身どちらかと言えば、エレーヌよりはクルトに近いタイプなのだ。

エレーヌのように世界や人を信じるなど出来ないし、目的の為なら手段を選ばないところも案外似てる気がする。

今回クルトの計画を邪魔したのは、一重に立場の違いという理由が大きい。


「だがクルトのやり方では、世界は収まらないだろう。 多くの混乱と不幸を生み出すだけだ。 それこそ魔法世界の人達の数と同じか、それ以上にね。」

「確かにそうっすね。」

それに手段を選ばないのは構わないが、クルトのやり方ではより多くの悲劇を生み出すだけかもしれないのだ。

結局クルトの一件は真相を知る多くの者達に、世界や人の現状と未来について考えさせることになる。

それは横島も例外ではなく、魔法世界のことを魔法世界のみならず地球も含めて真摯に向き合う悠久の風のエレーヌ・ルボーンの言葉が、少なからず横島の心に響いたのは確かだった。

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