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二年目の春・9

その後、何人かはこのまま横島の家に泊まりたいと言い出したものの、世間体なんかもあるし明日からが本番なので、文句を言いつつあやか達に連れられて女子寮に帰っていく。

ケーブルテレビでは明日の朝まで徹夜で麻帆良祭の紹介や見所を特集した番組をするらしく、学園の報道部やお笑い研究会などのメンバーがばか騒ぎしている。


一方魔法世界では、いよいよ指名手配されたクルト・ゲーテルが、ウェスペルタティア王国の旧王都オスティアを目前にしていた。

立ち入り禁止区域としてメガロメセンブリア軍により厳重に管理されてる旧王都オスティアではあるが、メガロメセンブリア軍に精通したクルトは軍の隙を理解していて侵入を試みるつもりだった。

彼らが旧世界と呼ぶ地球に行き、切り札を鍵として同志を集めてメガロメセンブリアを打倒する。

そして魔法世界の人間種を地球側に移住させるまでが、クルトの譲れない一線だった。


旧王都の立ち入り禁止区域は入るまでは大変だが、入ってしまえば軍も居ないので行けるはずだとクルトは考えている。

しかし……


「やっぱりここに来たね。 クルト坊や。」

軍の警備の隙を狙うクルトは、背後に人の気配を感じて振り返ると、そこには見知った人物が居た。


「貴女でしたか。 エレーヌ・ルボーン」

背後に現れたのは、悠久の風の代表であるエレーヌ・ルボーンである。

クルトにとってそれは予期せぬ出来事のはずだが、慌てることも驚く事もなく目の前に姿を現したエレーヌを見つめる。


「旧世界には行かせないよ。 坊やの理想。 それは理解する。 けどね。 世の中にはやっちゃいけないことがある。 結果だけ良ければ全ていい訳じゃないんだ。」

エレーヌは特に武器を持つでもなく、まるで子供をたしなめるように淡々とクルトに語りかけるが、クルトはすでに神鳴流の野太刀を構え戦闘体勢に入っていた。

何がなんでも押し通る。

言葉にしなくても、答えは明らかだった。


「貴女には期待していたのですがね。」

「それはこっちの台詞だよ。 いつまでも過去をグズグズと引きずって。 魔法世界を壊す気かい!」

「過去を受け止めぬ者に未来はありません。 それに、どのみち魔法世界は壊れるじゃないですか。 貴女はそれを見てみぬフリをしている。」

「旧世界を知らぬ坊やの机上の空論に付き合うほど、暇じゃないんでね。 タカミチが何故坊やから離れたか、分からないのかい?」

何があろうと引かぬという態度のクルトに、エレーヌはただ語りかけるのみだ。

それが彼女なりのクルトへの最後の情けであり、願わくば自ら過ちを認めやり直して欲しい。

しかし、そんなエレーヌの親心にも似た気持ちもクルトには届かない。


「正攻法で解決出来ないのは、貴女も理解してるはずだ。 誰かがやらねばならない。 例え世界を滅ぼした巨悪になっても。」

「坊や。 やっぱりあんたは政治家には向かないよ。」

「結構。 私は貴女を倒しても行かせてもらいます。」

「熱くなるなんて、らしくないね。」

じりじりとエレーヌとの距離を詰めつつ、周囲を探る。

一対一ならば勝てるが、エレーヌが一人で来るはずがないのはクルトとて百も承知だ。


「タイムリミットだよ。 坊や。」

そして次の瞬間には、エレーヌとクルトを取り囲むようにメガロメセンブリア軍の特殊部隊が、短距離集団転移魔法により現れる。

全ては詰んでいたのだ。

クルトに自ら出頭する最後のチャンスを与える為に、エレーヌが来た時から。

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