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二年目の春・9

この日の夕方はいつもに増して混雑していた。

街では前夜祭が始まり、小中高などの校舎はまだ準備中であるが、各地の公園や広場に大学部などでは早くもお祭り騒ぎになっている。

タマモはあちこちから聞こえてくる賑やかで楽しげな声に瞳を輝かせつつ、増える行列の整理に追われていた。


「限定のプリン終わりです。」

「了解。 張り紙、剥がしといて!」

なおこの日は日替わりメニューとして、マホラカフェ特製プリンが税込百円で販売していたが、用意した三百個が夕方には完売してしまうほどの盛況ぶりだった。



「申し訳ないが、僕に言われても弁護は出来ないよ。 悠久の風に言ってくれ。 弁護くらいはしてくれるかもしれない。」

一方高畑はお昼からタマモと一緒に、行列の整理をしたりして仮設店舗を手伝っていた。

相変わらず広域指導員としてあちこち駆けずり回っているものの、空いた時間はクラスの店に顔を出す事が増えている。

そんな高畑の悩みの種は、クルト一派から掛かってくる助けを求める電話だった。

クルト・ゲーデルの逃亡に驚いたのは、悠久の風や当局ばかりではない。

同志だった者達の方が驚きや戸惑いは大きかった。

まさかギリギリになり、自分だけ敵前逃亡をするなど考えもしなかった者が多いのだ。

悠久の風や元老院穏健派は計画をろくに知らない末端にそこまで責任を負わせる気はないが、それでも無罪放免といかない場合が多々ある。

公職に就くものは減給や停職に左遷で済ませる方向で調整しているが、協力していた民間人は悲惨だった。

赤き翼という錦の御旗はすでにない。

その上でクーデターなどというテロ計画が露見すると、ろくに事情を知らない末端でさえ社会的な制裁を受ける。

仕事の解雇は当然として、一部マスコミにクルト一派のメンバーとして名前が出ると、家や実家に親戚縁者までマスコミが押し掛けて来てしまいパニックになったように助けを求める者も居るが、高畑にはどうしようもない。

一応連絡をしてきた者を悠久の風に伝えてはいるが、悠久の風は別に政治団体でもなければマスコミでもない。

その手の調整能力のある人間は限られている。

結局はメガロメセンブリア当局が過度な報道を控えるようにと動いているが、流石に圧力をかける程守ってやる義理もない。

結果として高畑の携帯には、番号を教えてない人から電話が鳴り止まなくなっていた。

中には顔を思い出せない人や、全く知らない知人の知人を名乗る人も居たりして、高畑を疲れさせている。


「どうしたの?」

「いや、仕事が立て込んでてね。」

「やすんでいいよ! むりしちゃだめ!」

「そうだね。 もう少ししたら休ませてもらうよ。」

最終的に高畑はタマモにまで心配される始末であり、タマモに対して大丈夫だと言うものの、タマモは意外に頑固なのであとで休むと言ってなだめることになる。

ならば知らない番号からの電話を出なければいいのだが、それが出来ないのが高畑という男だった。

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