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梅雨の終わり

「小竜姫様の知り合いの方ですか? 最終的には横島さん次第ですが、多分大丈夫だと思いますよ」

小竜姫の困ったような表情が少し気になる魔鈴だが、基本的に来る者を拒まないタイプの横島の答えはだいたい分かっている


「魔鈴さん。 天竜童子殿下の事はご存知ですか?」

事情の説明を始めようとした小竜姫は魔鈴がどこまで横島の過去を聞いているか尋ねるが、魔鈴は知らないらしく首を傾げていた


「私の主筋である竜神王様の御子息なのですが、以前横島さんと会ってるんです」

どうやら天竜童子が関わった事件を知らない魔鈴に、小竜姫はあの事件を大まかに説明していく

この事件の主犯であるメドーサの事はアシュタロス関連の話で名前を聞いた事があった魔鈴だが、天竜童子の事件自体は初耳だった

魔鈴が横島や周りから聞いたのは主にアシュタロス戦が中心だし、細かい事件などは話してない事が多い


「事件自体は無事解決したのですが、問題はその途中に横島さんが殿下の家来になると約束したらしくて……」

大まかな事件の流れを聞いた魔鈴だが、家来の話に表情が固まってしまう


「ご存知とは思いますが、神族にとっての約束は人間とは意味が違います。 口約束とはいえ、臣下の約束を交わしたとなればそう扱われて当然です」

出来るだけ解りやすく説明する小竜姫だが、魔鈴はあまりの事態に頭が真っ白になる感じだった

古来より神族との約束は契約に等しいくらい重く、それを破れば天罰が下っても不思議ではない

事実そんなような昔話やら神話はいくつかあるが、まさか横島がそんな約束をしていたなど思いもしなかった


「まあ、この問題にはいくつか偶然が重なりました。 一つは事件で殿下が大人になった事、そしてもう一つは横島さんが有名になってしまった事です」

神族との約束が重いのは今も変わらないが、仮に天竜童子が大人の力に覚醒しなければ子供の戯言で済んだ可能性がある

そしてもう一つの問題である横島の事、こちらはアシュタロス戦を境に横島の名前が神魔界で知らぬ者がいないほど有名になってしまった

アシュタロス戦以前から横島を家来にしたと周りに言っていた天竜童子だが、本来なら人間を一人家来にしたところで神界では全く意味などない

しかし横島の予期せぬ活躍により、天竜童子と横島の臣下の約束が意味を持ってしまったのだ


「まあ臣下の話は、現状ではこれ以上進む事はありません。 横島さんは生きた人間ですし、本人が神族になりたくて家来になった訳ではありませんから……」

あまりの事態に顔色が青い魔鈴に、小竜姫は慌てて現状では何も変わらないと告げる


実は小竜姫も知らないのだが、この話には相当深い裏事情があった

アシュタロスを倒して有名になった横島だが、その立場は現状では人間であり中立である

神魔上層部は横島を神魔どちらかの勢力に加える事を密かに禁止していたのだ

まあ現状の横島の実力では神魔界が気にするレベルではないのだが、文珠がある横島が神魔に転生すれば将来的にどの程度の力になるのか想像がつかない

密かに欲する勢力はあったのだが、上層部が横島が生きてる間の神魔への勧誘を禁止している

まあ上層部の思惑はわからないが、横島の自由と平和が微妙なバランスの上に成り立っているのは人間界も神魔界も似たようなものなようだ


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