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二年目の春・8

その後もタマモは行列に並ぶ人の顔色を見ては、良くない人には椅子を貸すことを続けた。

途中で雪広グループの人が気を利かせてパイプ椅子を纏まった数で持ってきてくれたこともあり、タマモが独自判断で椅子を貸しても数が間に合うことになる。

一部のガラの悪い客が自分達には椅子を貸してくれないのは差別だと騒ぎ出すトラブルもあったが、周りの客から思いっきり睨まれる結果となり大人しくなった。

ただタマモは具合の悪い人が来たら椅子を空けて下さいと丁寧に頼み、彼らにも椅子を貸していたが。

正直幼いタマモがお手伝いしてるのに、いい年した大人が椅子を寄越せと騒ぎ、幼いタマモにお願いされるのは情けない姿であった。


「お嬢ちゃん。 さっきはありがとうね。 美味しかったわ。」

「ほんと!? よかった。 おまつりたのしんでね!」

そしてタマモが最初に椅子を貸した幼子連れの年配者は、食事が終わり店を出るとタマモにお礼を言いに来ていた。

孫らしき幼子も満足そうにしていて、彼女の手には店内で売られてる絵本があった。


「頑張ってね。 応援してるわ。」

「うん! ありがとう!」

年配者と幼子を見送るタマモであるが、タマモは自分達のお店で食事をして満足そうに帰るこの瞬間が本当に好きだった。

ちなみにタマモは当然知らなかった。

彼女が日本で有名なアパレルメーカーの会長婦人であることを。

芦コーポレーションが現在自社のインターネット通販事業で、新規に販売交渉をしてる相手であるなんて知るはずもない。

今回のタマモの行動が切っ掛けで、後日思わぬ成果を生み出すことになるのだが……。


「やけに子供とお年寄りが多いな。」

「この時期に子供からお年寄りまで安心して楽しめるアトラクションは意外に少ないネ。 料理も年配者でも美味しく食べれる物というのも高ポイントヨ。」

さて店舗の方は午後になると、学生以外の年配者や未修学児童などの子供を連れたお客さんの姿が、多く見られるようになっていた。

去年と比較しても明らかに多い年配者や子供だが、理由として近年益々商業化が進み本格化している大学部の出し物やイベントは、意外に年配者や子供向けの物が多くないのが理由としてあるらしい。

利益と麻帆良祭の出し物のランキングの双方狙うには、やはり学生から若者をターゲットにしている場合が多く、必然的に幼子なんかを連れたお客さんが安心して楽しめるアトラクションは多くないようである。


「つうか、タマモの方は大丈夫か?」

「大丈夫みたいですわ。私達よりお客さんに慣れてますから。」

「タマちゃんらしいわ。」

そしてイキイキと働くタマモを横島は厨房から覗いて心配していたが、人懐っこい笑顔で働くタマモが更にお客さんを呼んでいる状況になりつつあった。

おかげで二日目も初日同様に行列が途切れぬままの混雑が続いている。

幼いながらタマモは立派に出し物の一員として戦力になっていた。

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