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二年目の春・8

プレオープン二日目は、一日目ほど開店前の行列は並ばなかった。


「わんこひつまぶし牛と鶏と海鮮入ります!」

「揚げパン、キャラメルソース三つ入ります!」

横島と少女達はホッとしたような残念なような、複雑な心境であったが。

いざ開店してみると混雑具合は昨日と大差なく、行列も開店後にはすぐに昨日と同じくらいが並んでしまう。


「いらっしゃいませ!」

そしてこの日のタマモは、フロアと厨房と店外を走り回り雑用やお客さんの出迎えにトラブルの対応と張り切っていた。

特に行列のお客さんにメニューを配ったり待ち時間を教える役目はほぼタマモがしていて、伊達に日頃から店で手伝いをしていた訳ではないと周囲に見せつけている。


「おばあちゃん。 だいじょうぶ?」

「大丈夫だよ。 年寄りには少し並ぶのが辛いだけだから」

「ちょっと、まってて!」

そんなタマモが突然顔色を変えて動いたのは、タマモと同年代の小さな子供を連れた年配者がしゃがみ込んだ時だった。

顔色が少し悪く、かなりのお歳のようで行列に並ぶのが辛いようだが、幼い孫が店に行きたいと言っていて並んでるらしい。


「こんにちは!」

「隣の……、確かタマモちゃんだったね。 どうしたんだい?」

「うんとね、ならんでるおばあちゃんに、いすをかしてあげたいの。 おそとのいすを、かりていいですか?」

これはいけないと考えたタマモは周囲を見渡して、雪広グループがイベントステージと一緒に用意してる大量のテーブルと椅子があるのを見つける。

そして自ら隣の雪広グループのパビリオンの人に、椅子を貸して欲しいと頼みに行っていた。


「ああ。 構わないけど。」

「ありがとうございます!」

タマモは許可をもらうと、使われてないテーブルから椅子を一脚借りて、自らの身長近くある大きな椅子を運ぼうとする。


「待って。 持ってあげるよ。 何処に運ぶんだい?」

ただ流石に幼いタマモ一人だと心配になったのか、先程お願いした雪広グループの若い社員が後を追い掛けてきて、タマモの代わりに椅子を先程の年配者の元に運んで行ってくれた。


「ありがとうございます。 でも皆さん立って並んでますから……」

「だめ! むりしたら、おまつりたのしめなくなるよ!」

「どうぞ。 お気になさらずに。」

「そうだよ。 オレ達はいいから座りなよ。」

しかし多くの人が並ぶ中で年配者は、自分だけ椅子に座るのは申し訳ないと丁寧に断ろうとするも、タマモがそれを許さなかった。

妙なところに頑固なタマモが座らないとダメだと腕組みして、一歩も引かぬ態度を示すと、雪広グループの社員や周りに並んでいた大学生達が後押しする形で年配者はようやく座ることが出来ていた。

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