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二年目の春・8

誰も居なくなった事務所で、クルトは一人なにをするまでもなく呆然としていた。

今回の一件でクルトは、詠春が自分のやろうとしている事を否定したのは理解している。

何処まで知っているのかは流石に詠春には分からぬが、クーデター計画に賛同しないのは初めから分かっていた事だが。

元々真面目な詠春がクルトのようなやり方を好まぬのも、師事していたクルト本人はよく理解していた。


「タカミチが知らせたか」

クルトにとって計算外だったのは、悠久の風が本気で止めに来たことだろう。

メガロメセンブリア本国の政治的な争いを嫌う、代表のエレーヌ・ルボーンはクルトとも旧知の仲である。

まさかここまで邪魔されるとは、思わなかったと言うのが本音だ。

高畑か悠久の風が詠春に計画を知らせたのだろうと、 クルトは考えている。

他ならぬクルト自身を追い詰める為に。


「知られたのでしょうね」

エレーヌ・ルボーンが動くとすれば、クーデターではなく魔法公開の計画を知られたと見るべきだとクルトは考えている。

彼の同志ですら、本当にやる気なのかと覚悟が決まらぬ者が居たのが事実なのだ。

秘密とは漏れるものだと考えていたクルトであるが、あまりに早すぎる情報漏洩には忸怩たる思いもある。


「この十数年、私は……」

赤き翼の仲間や高畑には出来ないやり方で、自分は世界を仲間達が守った世界を救って見せると、それだけでクルトはひたすら生きてきた。

ただクルトはまだ赤き翼の過去に甘えている。

例え賛成してくれなくても、立ち塞がる事はしないだろうと勝手に期待していたのも事実である。


「例え幾万の犠牲を出そうとも……地球の同胞を犠牲にしてでも……」

目の前の小さな現実を救っても世界は救われない。

そう考えたからこそ、クルトは仲間達と袂を分けたのだ。

だが、クルトは今の今まで赤き翼の過去を利用して、その看板で生きてきたのも事実だ。

利用できるモノは利用しなくては何も出来ないのも事実であるが、結局自分の力では何も成せないと改めて突きつけられたクルトの心中は穏やかではない。


「私は……なにを成すべきか」

最早クルトには己自身しか残されてなく、この状況で自分は何を成すべきなのかひたすら考えることになる。

魔法世界のために。

赤き翼の仲間達が守った世界の為に。

アリカが我が身を犠牲にして守ろうとした世界の為に。

クルト・ゲーデルは最後の最後まで諦めるつもりはなかった。


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