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二年目の春・8

「まあ、こんなもんだろ」

雪広グループの人達が帰った後も、横島は厨房で木乃香と調理をしていた。

せっかく食材を持ってきてメニューを作ったので、少女達に完成形のわんこひつまぶしを食べてもらうことにしたらしい。


「ここに来ると去年を思い出すわ。」

「そうだな~。あれから一年でいろいろあったしな。」

小振りなお茶碗サイズのわんこひつまぶしを作りながら、木乃香は隣に居る横島の横顔を見てふと一年前のことを思い出していた。

去年のこの頃は、まだ何処か地に足が着いてない感じがあったのが鮮明に覚えている。

一見すると何処にでも居そうな普通の人に見えるのに、少し目を離したら消えてしまいそうだった。

木乃香が明確に男性として横島を意識したのは意外に遅く、気が付くと一緒に居るのが当たり前になった後である。

ただ横島が他の女の人と一緒に居ると、心の中が僅かにモヤモヤしたのはかなり前から感じていたことだ。


「タマちゃんのお誕生日どうするん?」

「やっぱり家に来た日かなぁ」

年頃の男女が当たり前に一緒に居て、変わらぬまま側に居るには答えはあまり多くはない。

少なくとも木乃香は横島を友人ではなく男性として見ている。

横島がヘタレなので進展はしてないが。


「横島さんの誕生日と一緒でもええ気もするんやけど。」

「タマモのやつ意外に拘るからな。」

麻帆良祭を間近に控え、今年はどんな麻帆良祭になるのかと期待している木乃香であるが、麻帆良祭が終わればタマモが麻帆良に来て一年になる。

明確な誕生日がわからぬので、横島が本に封印されていたタマモを解放した日か、日にちが近い横島の誕生日と一緒にするかで悩んでいた。

そもそも仲がいいとはいえ、中学生になってみんなで誕生日を祝うなんて普通はあまりやらないことだった。

ただタマモの存在は横島にとっても木乃香にとっても、かけがえのない存在であることに変わりはない。


「タマちゃん自分の誕生日のこと忘れてそうやわ。」

周りのみんなの誕生日はきっちり覚えているタマモだが、まだ幼いからか少し抜けているところがあり、自分の誕生日のことは頭にないようなのだ。


「みんなが甘やかすからなぁ。」

「一番甘やかしてるの、横島さんや。」

正直横島はタマモに関しては、周りが甘やかし過ぎかと将来が少し不安でもあるが、端から見て一番甘やかしてるのは横島になる。

そもそも人としての躾や教育をしてるのは、ハニワ兵とさよと木乃香達なのだ。

最近は常連のお年寄りやらエヴァもあれこれと教えているが。


「子供ってどうやって躾していいかわからん。」

「普通の人なら出来ることやのに。」

「うーん。 変にコンプレックスを抱えても困るしなぁ。」

そして一番甘やかしてる横島であるが、子供の教育をどうしたらいいか本気でよく分かって無かった。

周りから比較されて差別された子供時代のトラウマも若干あるし、元々技術面はともかく精神面の指導や教育なんて横島はやったことがない。

正直このまま木乃香達にお願いしようと割と本気で考えていた。


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