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二年目の春・8

その夜は少し重苦しい空気が部屋を支配していた。

土偶羅による空間転移により急遽近衛邸に集まった詠春と雪広家と那波家に、横島と土偶羅の分体である芦優太郎、それと高畑もこの件には深く関わるので呼ばれている。

穂乃香はクルトのテロが確実になった以上は、神鳴流とは無関係だと魔法世界で証明しなくてはならないとはっきりと言っていたのだ。


「分からなくはないの。」

「そうね。 実際すでに関係ないんだものね。」

雪広清十郎と那波千鶴子は穂乃香の言い分を否定しなかった。

少し動くのが遅いのでとは感じたが、詠春がなかなかそこまで決断できなかったと言われると何とも言えないようである。


「高畑君。 君はどうじゃ?」

「僕は……穂乃香さんの意見に賛成です。 複雑な思いもありますが、クルトの行動はすでに弁護の余地はないでしょう。 悠久の風のみんなだけは心配ですけどね。」

そして高畑だが、彼は迷い言葉を選びながらも穂乃香の意見に反対しなかった。

無論それほどシンプルな話ではないが、クルトとクルトの計画に一度は賛同した者達よりは詠春と関西を守るのに反対は出来ないと言った方が正しいだろう。

結局全体としては消極的賛成というか、反対出来ないというのが体勢であった。


「詠春さん。 いっそ自分で動いてみますか? 他の誰でもない自分でクルトって人を止めたらどうです?」

「横島君!? 流石にそれは……」

「もうギリギリですよ。 魔法世界は。 自分の弟子は自分でけりをつける。 それでこそ神鳴流を守れるんじゃないっすか?」

ただここで黙って麻帆良祭の出し物で使う椅子のカバーを縫いながら聞いていた横島が、突然とんでもないことを言い出してしまう。

午後に穂乃香から聞いていた横島はずっと考えていたが、動けないのは近右衛門と高畑であり詠春ならば多少無理をしても動く名目はあるのだ。

滅茶苦茶にはなるかもしれないが、どのみち魔法世界はもうギリギリで何が起きても不思議ではない。


「横島君。」

「それとも自分の手を汚したくないなら、俺が詠春さんの姿を借りてやりましょうか? まあ情報を流してクルトって人の大義名分を奪うのでも構わないっすけどね。 師匠としてそれでいいんっすか?」

キノコのかさの部分をチクチクと縫いながら話す横島の光景はシュールだが、話してる内容は過激だった。

無論適切なタイミングを見計らって、詠春がクルトを破門したという内容や赤き翼とは無関係だと情報を魔法世界に流してもいいが混乱は避けられないだろう。

ならば詠春自ら動くべきではと、横島は少しだけ昔を思い出しながら語った。

神鳴流は知らないが横島には、詠春が自らの弟子をどうしたいのか今一つ見えてこない。

実は心の中ではまだ信じたいのではと見ている。

恐らく今回の話も穂乃香が、詠春と神鳴流の名誉と今後の立場を考えて言い出したのだろうと見ていた。

かつて自分を導いた先人達はどうしていただろうかと考えると、横島には多少の混乱やリスクはあっても詠春が動くべきではと思えてならない。

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