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その二

その後百合子とタマモが妖怪の事を話す事は無かった

いかに百合子でもオカルト関係は疎い為に、タマモの話をどう判断していいかわからない

妖怪の真実を知りイメージは根底から変わったが、だからと言って妖怪が全て同じとも限らないのだろうし

長い歴史のある問題なだけに、素人が簡単に判断していい事で無いのは理解している


「さて、今日のお昼は私が作ろうかしらね。 買い物に行きたいから、付き合ってくれないかしら?」

勉強が一息ついてシロも交えて三人が休憩している頃、百合子は三人を買い物に誘っていた

妖怪だの人間だの難しい問題は棚上げにしたが、タマモ達を個人として扱う分には問題無いと思っている

息子である横島が家族のように接しているタマモ達に、母親である自分が差別する訳にはいかない

そんな考えからの行動だが、結局どこをどう見ても悪いようには見えないタマモ達が気に入ったのは確かだろう


無論タマモ達が百合子の誘いを断るはずも無く、四人は仲良く近所に買い物に出掛けて行った

横島との対面の時の怖いイメージがあり百合子に怯えていたケイも、一緒に買い物や料理をしていくうちに次第に心を許していく

そして夕方になり横島が帰って来る頃には、昨日とは全く違い楽しそうな百合子やタマモ達の姿があった



それから二日後、横島が起きるとリビングには荷物を纏めた百合子の姿がある


「おふくろ? どっか行くのか?」

「ナルニアに帰るんだよ。 父さんもそろそろ反省しただろうしね」

予想外の事に驚く横島に、百合子は柔らかな笑みを浮かべて答えていた


(いったいどうなってんだ?)

百合子らしくない中途半端なままで帰る事に、横島は逆に裏があるのかと疑ってしまう


「とりあえずは合格にしとくわ。 ただし、いずれ全てを話してもらうわよ」

不思議そうに自分を見る横島と魔鈴達に、百合子は意味ありげな視線を向ける


「おふくろ……」

「聞きたい事は山ほどあるし、不安もあるわ。 でもね…… お前は此処に居るべきだと思ったんだよ」

驚きぽかーんとする横島と魔鈴に、百合子は今回初めて満足そうな笑顔を浮かべていた

ずっと主導権を握られっぱなしだっただけに、魔鈴の驚く表情が嬉しいようだ


(何を隠してるのかまではわからなかったけど、まあいいでしょう)

突然ナルニアに帰る事を決めた百合子だが、その理由は簡単だった

何か隠してるのをわかっているのに放置するなど、以前の百合子ならしなかっただろう

しかしそれ以上に納得している理由がある


(全く…… 家族をバラバラにするなんて出来る訳無いじゃないの)

結局百合子の心を動かしたのは、魔鈴達の家族の絆だった

その絆の中心に居るのは、明らかに横島なのだ

謎や疑問は残ったままだが、息子が手に入れた絆を断ち切るなど百合子には出来るはずがなかった


「これからも忠夫をお願いします」

魔鈴・タマモ・シロ・美衣・ケイ・カオス・マリアのみんなに深々と頭を下げて百合子は帰って行く

その穏やかな表情は、初日とは別人のようにも見える


「あなた達の目指すモノが何なのか…… じっくり見せてもらうわよ」

事務所を出て朝の街を歩く百合子は、嬉しさと淋しさの入り混じった表情だった


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