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二年目の春・7

さてこの日の夕食後の少女達が帰った店には、近右衛門と雪広清十郎と那波千鶴子の三人が偶然揃っていた。

横島でさえ本当に偶然かと疑問に感じだが偶然らしい。


「今年も麻帆良祭の季節じゃな」

「みな張り切っとるぞ」

近右衛門は夕食がまだだったようで夕食を出していたが、あとの二人は夕食後だったようなので軽く摘まめる物とお酒を出している。

近年は半ば引退していて麻帆良祭にも孫の出し物以外は顔を出さぬ二人であったが、今年は麻帆良総研の設立に関連して去年に続き麻帆良祭の公式なパーティやイベントに幾つか顔を出すようだった。

麻帆良総研は表向きはあくまでも雪広家と那波家の私的な組織として設立したので、関係者に説明や協力を求めるなど当面は動かねばならない状況にある。


「正直。あとは地下のアレが無くなればね。」

「何とか出来なくもないんですよ。ただ今あの人を起こすと滅茶苦茶になりそうなのがね。」

クルトの件や完全なる世界の動向など予断を許さないが、千鶴子が一番気になっているのは麻帆良に残る最後の爆弾らしい。


「間違いなく滅茶苦茶になるのう。」

「魔法世界救ってくれるんならいいんっすけど。あの人も地球を巻き込もうとしてましたよね?」

「魔法世界もそれほど難しい問題ではない。要は不完全な創造による足りない魔力をどうするかじゃ。不完全な創造を直せんならばどこからか魔力を持っていくしかないからの」

ナギにより身体ごと封じられた創造主を出来れば早く処理したいのだろう。

言葉には出さないが、処理出来る横島の気が変わらぬうちに頼みたいのが千鶴子の本音にはある。

冷たいようだがナギの生死より創造主を確実に仕留め後の憂いを断ちたいのだろう。

ただ近右衛門は詠春の心情も理解するし、可能ならばナギを救ってやりたいので慎重だった。

魔法世界の救済は実はナギも考えていて結局ない物は地球側の世界から持っていくしかないが、魔法世界の元になっている火星を命溢れる星にすれば魔法世界に流れる魔力のバランスが理屈としては取れるはずなのだ。


「宇宙開発か。利権争いや国家による覇権争いがが激しくなるのが目に見えとる。」

「その場合欧米の民間が進出するタイミングに合わせて、 私達も進出するのが一番でしょう。ただかなり長いスパン出なければ投資に見合う結果は得られないでしょうね。」

まあ魔法世界の有無に関わらず二十一世紀中に人類が宇宙に進出する可能性が高いので、前々から雪広と那波の両家も今から検討と準備は進んでいるがやはりリスクが高すぎるのが現状の本音になる。


「日本の政府は出遅れるであろうからのう。」

「放っておけばどうっすか? ダメなら第三国で法人作ってそっちでやればいいじゃないっすか。」

「まあそうなんじゃがの。」

採算が怪しいのもあり本当はこういう分野は政府に頑張って欲しいが、現状の日本だと無人のロケットを国策で作り年に数回飛ばすのがやっとなのだ。

宇宙進出に出遅れるのはまず間違いない。

この世界でも近年は政治家の質が落ちていて近右衛門達が頭を悩ませているが、横島はダメなら他でやればいいとアッサリしている。

横島の場合は曲がりなりにもアシュタロスとの戦いや神魔戦争を体験したので、国家や国民なんてのはほとんど信じてない。


「ダメなら例の無人惑星にみんなで移住しましょうよ。 百万人くらい連れていければ文明の維持には困らんでしょうし、理解できない人は最後まで理解出来ませんから。」

「そこまではっきり言えるのは凄いのう。」

「いろいろありましたからね。」

言葉として適切かは分からないが、横島は分かり合えない人を助ける気などもうないし自分が助けたい人以外は切り捨てる覚悟もある。

その点近右衛門達はまだ日本や日本人までは切り捨てる覚悟はなかった。


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