そして卒業式当日になり前日から寝れなかったピートは、緊張感漂わせたまま朝を迎えている

バンパイアハーフのピートが７００才を過ぎて普通の人間と一緒に高校に入るなど、昔なら考えられなかった

吸血鬼に対して抵抗感の少ない日本だと言う理由もあるが、それでもこれほど穏やかな生活を送れるのは予想外である


（今でも多くの人間の注目を集めるのは苦手なんだよね）

バンパイアハーフとしてブラドー伯爵の息子として、人間から敵意や好奇の視線を受けて生きてきたピートは、平和な環境で生きる今でも人間の注目を集めるのは苦手であった

個人単位ではバンパイアハーフを受け入れてくれた人間は今までも多く居たが、人間社会として受け入れられる事がどれほど貴重かは嫌と言うほど理解している


（僕はみんなのおかげで、この日を迎える事が出来たんだ）

唐巣や横島・愛子・タイガー、そして令子やエミなどたくさんの人間のおかげで人間の学校を卒業出来た

ピートは自分を助けてくれた全ての人に感謝をして、この日を迎えていた



その後緊張の連続だった卒業式も無事に終わり、多くの女子生徒達から花束やプレゼントを貰ったピートは感無量な様子で学校を後にしていく


「いい学校だったね」

バンパイアハーフのピートがみんなに惜しまれながら卒業した事や、横島が魔鈴やシロタマと上手くやってる事を見た唐巣は久しぶりに嬉しそうな笑顔を浮かべている

後悔や悩みは相変わらずだが、少なからず明るい未来の兆しが見えてる事が何より嬉しいようだ


「本当ですね。　人間と妖怪や吸血鬼が共に学校で学ぶ。　少し前なら絶対に無理な理想でしかなかったのに……」

卒業が寂しく感じるほど、ピートにとって高校生活は幸せなものだった

些細な問題はいろいろあったのだろうが、あれほど幸せな環境で生きた吸血鬼は他には居ないだろうと思う


「吸血鬼の同胞達が安心して暮らせるように、そしていつかは人間との共存が実現するように僕も頑張らないと」

理想と現実の狭間で悩み生きて来たピートは、自分の理想は限りなく実現不可能な夢でしかない事を良く理解している

しかしこの高校生活によって僅かだが希望も持っていた

いつか世界があの学校のようになれるかもしれないと……
　
　
「これからどうするか決めたかね？　オカルトＧメン入りを迷ってるみたいだが」

夢と理想を語るピートに、唐巣は今後の事を尋ねていた

実は先月末にピートがオカルトＧメン入りの決断を延ばした後、唐巣は美智恵からオカルトＧメン入りを後押しするように頼まれていたのだ

しかし唐巣はそんな美智恵の頼みを断っている

あくまでも決めるのはピートであり、唐巣自身今まで全く口出しをして来なかったのだ


「正直、今も迷ってます。　僕のオカルトＧメン入りが、多くの人間や吸血鬼を救う可能性が高い事はわかってます。　でも……」

「ならば焦る必要は無い。　君の人生はこれから果てしなく長いんだ。　気が済むまで考えたらいい」

途中で口ごもったピートに、唐巣はそれ以上理由を聞かぬまま焦る必要は無いと言う

世の中何が正しいかは、誰にもわからないのだ

一見オカルトＧメン入りが一番いいように美智恵は言うが、組織の問題点を理解してる唐巣はそれが一番いいとは思ってない