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その三

三月も残り数日となったこの日、かおりは横島の部屋ですでに恒例となりつつある横島の夕食や朝食のおかずを作り置きするために料理をしていた。


「はい。 横島です。 どちらか様でしょう?」

時間はちょうど午後の三時頃だったためテレビを見ながらのんびりと料理をしていたが、来客を知らせるインターフォンが鳴る。

新居はオートロックのマンションなためマンションの入り口で来客が来たらインターフォンで顔を見て話をするタイプだが、来客は見知らぬ中年女性でありかおりは相手が何者なのか確認する。


「忠夫の母です。」

「横島さんのお母さん!?」

少しきつそうな見た目の女性が名乗ったのはなんと横島の母だというのでかおりはビックリして入り口のドアを開けた。


「あの。 失礼なのは重々承知してますが何か身元を証明出来るものはお持ちでしょうか?」

「ちょっと待ってね。 パスポートでいい?」

「あっ、はい。 申し訳ありません。 私、顔を存じてませんので。」

「いいわよ。 私も連絡しないで来たからね。」

ただかおりは横島の母の名前しか知らず顔も知らないので目の前の人物が本物か分からず、可能性は低いが横島を狙う魔族や妖怪の類いかもしれないと少し疑ってしまい本人確認の為に部屋に上げてからパスポートを見せてもらうことにする。


「疑って申し訳ありません。」

「いいわよ。 でもちょっと無用心じゃない? 家に上げてから確認するなんて。」

「はい。 ただ私も霊能者なので最低限逃げるくらいならば出来ますから。」

パスポートは疑いようもない本物で出入国記録も横島がちらりと話していた頃と一致する。

かおりは疑ったことを謝罪するが母の百合子はそんなかおりを試すとも挑発するとも受け取れる言葉を口にするも、かおりは横島から文珠も幾つか護身用にと貰っているので小竜姫やパピリオクラスの魔族でもない限りは逃げるくらいならば出来ると考えていた。

そもそもあのクラスの魔族なんて人間界には数えるほどしか居なく横島のようにポンポンと会う方が珍しいのだ。


「いい部屋ね。 ところでガス大丈夫?」

「あっ!?」

そのまま友好的とも言えないが敵対的とも言えず微妙な距離の百合子に、かおりは流石に緊張するのか料理の最中だということを忘れてしまい百合子に指摘されて慌ててキッチンに向かう。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。 弓かおりです。 横島さんとお付きあいさせて頂いてますわ。」

「忠夫の母の百合子です。 息子が世話になってるわね。」

突然の来訪に少しドタバタするが、かおりはお茶を百合子に入れると落ち着いたのか姿勢を正して自己紹介した。

そしてそんなかおりの姿に百合子の雰囲気が一気に和らぎ友好的な様子に変化する。

別に百合子も息子の恋人にケチを付ける気などないのだ。

ただ令子のように甘ったれたりおキヌのように優柔不断にならなければとりあえずは文句などない。

無論どんな相手だろうと横島にとっては百合子のやることは迷惑でしかないが。

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