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二年目の春・7

一方日曜であるこの日は横島の店は相変わらず学生達で賑わっていた。

この日は日替わりメニューにクレープを出しているのでバイトに入っているのどかと共に横島は薄い皮にフルーツやクリームを乗せて巻いてはお客さんに提供している。


「横島さん。 もしかして超さんが何かしそうなんですか?」

「ん? どうしたんだ? 急に。」

「いえ、なんとなく……。 横島さんとか高畑先生の様子がちょっと。」

日曜ということもあり横島は占いを頼まれたりもして忙しく働いていたが、ふと厨房で二人だけになるとここ数日気になっていたことを問いかけていた。

きっかけはどちらかと言えば高畑だった。

授業中などは変わらないが数日前の金曜のお昼休みに偶然見た一人で休憩していた高畑の姿に、のどかは何かしらの不安というかいつもと違う何かを感じたようである。


「いや、超さんは大人しいもんだよ。 未来に帰る気もないみたいだしな。 ただ高畑先生は別のことでちょっと悩んでるんだと思う。」

のどかは高畑や横島の微かな変化に気付いていてまた超鈴音が何かをしようとしているのかと不安を感じていたらしく、横島はそれを否定するも別のことで問題が起きてるのを示唆した。


「私達に出来ることはありませんか?」

「うーん、高畑先生の悩みは俺にも出来ることはないしな。 というか何も出来んから悩んでるんだと思う。」

「何も出来ないからですか。」

「高畑先生が魔法世界の英雄なのは知ってるだろ? 極端な話すると魔法世界じゃ気軽に飲みにも行けんからな。 何かやりたいと思っても動けないこと多いんだよ。」

のどかが気付いたということは何人かの少女が何か感じてる可能性があると考えた横島は下手に隠すよりはと問題があることは教えるも、流石に内容までは教えてやることは出来るはずがない。


「正義の反対は別の正義だなんてこと現実だと良くあるしな。 巨悪に挑む英雄も世界に仇なすテロリストも現実だと差が紙一重なんて場合もある。 カードの裏と表みたいなもんだからな。 俺やのどかちゃんみたいな凡人と違うからさ。 偉大な先人の二代目は何にしても大変なんだよ。」

相変わらず自分は凡人だと言い張る横島立場はスルーするとしてものどかは高畑の立場が依然として一介の人間ではないことをこの時改めて感じる。

物語の英雄なんかは人々に尊敬されてお姫様と結婚してめでたしめでたしなんて良くあるが、現実だと英雄と呼ばれる者は意外に晩年が大変だったり殺されたりしてめでたしめでたしとならない場合があることは読書家な彼女はよく知っていた。

それに魔法世界で高畑が依然として赤き翼の後継者とも忘れ形見とも言われてるのものどかは情報としては聞いている。


「のどかちゃんなら分かるだろ? 高畑先生を利用しようとしたり疎んだりする奴なんていくらでもいるんだよ。 俺達は高畑先生を信じて今まで通りにするのが一番だと思う。 高畑先生だって気の抜ける相手は必要だしな。」

「はい。 そうですね。 私達が高畑先生に気を使わせちゃダメですよね。」

結局のどかは高畑が何かしらの悩みを抱えてることは理解したが、それは高畑や横島ですら現状ではどうしようもない以上は知らぬフリをして信じてやるしかないのだと理解した。

少しもどかしい気持ちがあるが世の中それほどシンプルではないし、横島のように動けば問題が拡大しそうな人間を知るが故に高畑は何も出来んないのだろうと悟る。

そもそも魔法世界で英雄とも言われる高畑が何故日本に居るのか、聡明なのどかなら理解できた。

高畑の悩みが一日も早く解決して欲しいと祈りつつ、のどかはそれを教えてくれた横島もまた同じような立場なのではと薄々勘づいていた。


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