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二年目の春・7

「ルボーンさん。 急にどうしたんですか?」

一方高畑からクルトの情報を手に入れた悠久の風のエレーヌ・ルボーンの方だが、彼女は万が一の為にと一緒に休暇ということにして連れてきていた悠久の風の古参メンバーでもある仲間をすぐに呼び出していた。


「セドリック。 休暇は終わりだよ。 これ見てみな。」

「これはゲーデル議員の? ……え? そんな……。」

彼はセドリックというエレーヌと同世代の男性でどちらかと言えば文官や内政家のタイプで悠久の風の裏方を担っている人物になる。

エレーヌの懐刀とも言われる人物で連合の兵士をしていた頃からの副官であり、メガロメセンブリアを筆頭に地球側の魔法協会に政府や果ては国連とも折衝することが多い。

だがそんなセドリックですら高畑が置いていった情報に驚き困惑の表情を見せた。


「……これはまた。」

「早急に裏取りしな。 それと本国の情報部がどこまで掴んでるかもね。 分かってると思うがまだ情報は漏らすんじゃないよ。」

「どうするつもりです? これ下手に扱えば我々が国家反逆罪に問われますよ?」

それはクーデターの情報ばかりか禁呪である強制認識魔法の改良と使用を前提にしたテロ計画の証拠になりうる情報になる。

エレーヌはとにかく裏取りを最優先にしつつ関連情報を集めるように指示するが、流石にこればかりはセドリックも二の足を踏みエレーヌの真意を聞かずには居られなかった。


「止めるしかないだろ。 この計画が真実だとしてクルト坊やが何をしたいか分かるだろうが。」

「ゲーデル議員が考えそうなことと言えば魔法世界の崩壊を阻止または崩壊からの人間種の救出ですか? ということはまさか魔法の公開? しかしこちらの世界には魔法世界を助ける義理も余裕もさほどありませんよ。 こちらでは難民移民は今はまだ表沙汰になってませんが確実にこの先こちらの世界でも重大な問題になります。 有史以来これほど人口が増えたことがない人口なのに今更五千万も六千万もの異種族に近い魔法使いをこちらに移民させるなど現実的に考えると無理です。」

セドリックもまたガトウのツテで頼まれ二十年前には赤き翼の面々と認識があり連合内の完全なる世界の炙り出しを手伝ったことがあり世界の真相を知る一人である。

ただ彼はエレーヌよりリアリストでありクルトの計画は崩壊の阻止も人間種の移民も現状では無理だと語った。

そもそも魔法世界では二十年前の戦争でヴェスペルタティア王国の崩壊と併合などで、あちこちに大量の難民移民が生まれ戦争で疲弊した連合や帝国やアリアドネーの大きな負担となり問題になった過去がある。

地球側では未だ先進国に大量の移民難民が押し寄せてないのであまり問題になってないが、中東やアフリカではすでに問題になっていてこの先には世界的な問題となる可能性をセドリックはよく理解していた。

誰しもが自分の生活水準を落としてまで縁もゆかりもない人間を受け入れようとはしないし、それは立派な魔法使いを誇りにするメガロメセンブリア市民とて同じだったのだ。

現在に至るまでオスティア及び旧ウェスペルタティア王国領が名目とはいえメガロメセンブリアの信託統治領として正式な領土でないのも、メガロメセンブリアが建前はともかく土地は欲しいが旧ウェスペルタティア国民は負担だからと拒絶したからに他ならない。

結果としてクルトの計画は誰も幸せにならないとセドリックは言い切れるほどだった。


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