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二年目の春・7

「一方的な魔法の公開か。 迷惑な話だ。」

一方この日は休日として屋敷でゆっくりしていた近右衛門の元にエヴァが珍しく本来の姿で現れて囲碁を打っていた。

実は仮の姿のはずのアナスタシアの顔があまりに売れてしまい街を歩くと目立つので、近右衛門の屋敷なんかに来ればおかしな噂になりそうなので本来の姿で来たらしい。


「まあの。 じゃが魔法の公開だけはなんとしても阻止する。 その為に悠久の風のルボーン殿に高畑君が今日会いにいっておるしの。」

「あいつか。」

「多くは望まん。 向こうの問題は向こうで解決してくれるなら多少の余波ならなんとか出来るからのう。」

静かな部屋でパチと囲碁を打つ音が響くなかで近右衛門はちょうどいいからとクルト・ゲーデルの件の最新状況を教えていたが、エヴァ自身はあまり興味がないようで暇潰し程度に聞いていた。

横島や刀子が少女達の帰った夜の店でその手の話をするのでエヴァもある程度の話は聞いては居るが、魔法世界に興味がないし何より高畑以上に何も出来ぬ立場なので本当に聞くだけしか出来ない。


「やはり詠春は師には向かんな。」

「それは本人も自覚しとるよ。 本来神鳴流は人々を守るその心を受け継いでこそ神鳴流と言えるのじゃがの。 奴は技だけを覚えて勝手に出ていった。 正式な道場の弟子なら破門もいいところじゃ。」

ただエヴァはクルト・ゲーデルを中途半端に世に出した詠春にも責任はあるのではと考え、呆れた様子でそれを語るが一番責任を感じてるのは他ならぬ詠春である。

クルト自身は当初は神鳴流を名乗っていて詠春の後継者のように振る舞ってメガロメセンブリアで頭角を表したのだが、詠春はその時に破門まではせずに静観を決めた経緯が過去にはあった。

元々関西とメガロメセンブリアは交流はなく真偽は不明のまま魔法世界ではクルトは今も神鳴流だと思われてるが、正式には詠春の私的な弟子であり神鳴流を名乗る許可を与える前に喧嘩別れのように赤き翼を飛び出していたのだ。


「貴様もなかなか運が悪いな。 本当ならそろそろ楽隠居出来る年なのに。」

「それを言わんでくれ。 横島君達が寿命伸ばせるし病は治せるからと言うがおかげで隠居がいつになるやら。」

「クククッ。 いいではないか。 可愛い孫娘の為に働け。 木乃香が貴様の後を継ぐには横島やタカミチ達がサポートしても十年は必要だ。」

まあクルト・ゲーデルの問題は最早近右衛門ですら手に負えなくどうしようもないが、エヴァはそんなそろそろ隠居しようとしていた近右衛門がどんどん隠居から遠ざかる現状に少しサディスティックな笑みでからかう。

横島どころか土偶羅からも近右衛門が居なくなると困ると本気で言われるのだが、いくら寿命や病から解放されてもそろそろ楽隠居したいのが本音にはある。

しかしまあ二つの魔法協会と孫娘の木乃香のことを思えば十年は確実に隠居出来なく、エヴァにですらそれを指摘されると近右衛門はため息混じりに碁石を打つしか出来なかった。

ただエヴァはエヴァなりに木乃香の将来を考えてくれてることが近右衛門には救いであったが。


「エヴァよ。 木乃香のこと頼むぞ。」

横島や高畑や刀子にはない厳しさを持つエヴァに、近右衛門は横島達では教えられぬ世界を教えてやれる人物だと期待していた。

エヴァはそんな近右衛門の言葉に何も返事することはなかったが、知らないと突き放さないことが答えであることを近右衛門は理解している。

いつの間にか変わったエヴァの様子に近右衛門はそれだけでもこの十年頑張ってきた甲斐があると、この先の十年の糧とすることになる。

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