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二年目の春・7

「強制認識魔法とはね。 あれはだいぶ昔に魔法使いが影から人の心を操作しようとした禁呪だよ。 実際に街単位で支配するのに使ったこともあると噂だけどね。」

エレーヌは高畑から渡された報告書を読み終えるとテーブルに放り投げるように置き、深いため息をこぼして自分の情報網には引っ掛からなかった強制認識魔法について口にした。

強制認識魔法は人の心を操ろうとした者達により産み出された西洋魔法の負の遺産とも言える。

効果がほとんどない失敗作だと言われているせいか他の禁呪に比べると扱いが軽いが、見逃していい情報ではない。


「近衛のじいさんの考えは?」

「映像や画像に加えるように改良された形からこちら側で使うのではないかと。」

「だろうね。 マホネットの線も捨てきれないがあの効果程度だと魔法抵抗力の高い向こうの連中にはほぼ効果がない。 だがこっちだと話が変わる。」

流石は悠久の風の代表であるエレーヌは映像に強制認識魔法を加えることの効果と意味を瞬時に理解していた。

基本的に魔法世界の生命体は全体を通して魔法抵抗力が高いのでたいした効果はないが、魔法に接したことのない地球側では話が変わる。


「まさか魔法の公開でもしようってんじゃないだろうね。 冗談じゃないよ。 今そんなことしたら収拾がつかなくなる。 ただでさえアメリカが中東で火遊びをして厄介なのに。 民主主義の押し売りの次は魔法の押し売りかい?」

「確証はありませんがクルトの目的は向こうの人間の救済ですから。 メガロメセンブリアの現体制を終わらせ人間達を避難させるにはこちらを巻き込むしか方法が。」

「だから坊やって言うんだ。 時勢も空気も読めない頭でっかちが。 ナギの息子を潰した次は地球を潰すことになると気付かないかね?」

「僕は動けませんし関東魔法協会も動けません。 この状況を乗りきれるのは代表しか……。」

結局映像や画像に強制認識魔法を組み込むことで何を認識させるかだが、可能性が一番高いのはやはり魔法でありそれを理解するエレーヌは明らかに苛立ちの表情を見せる。


「魔法の公開は過去に何度も魔法世界や地球側でそれぞれに検討されては潰された。 第一次大戦終結後や第二次大戦終結後のには戦争に嫌気が差した世界のどさくさに紛れようとしたし、冷戦時代には核戦争阻止の為に魔法世界を巻き込もうとしたしね。 だが誰も出来なかった。 坊やに出来るわけないじゃないか。」

「代表……。」

「あんたに愚痴っても仕方ないね。 それにしても困ったね。 アタシも出来ることと出来ないことがあるよ。 一応調べさせはするがね。」

高畑は魔法公開の証拠は提示してないが総合的に情報を見ると可能性は高いばかりか、一番最悪のシナリオが魔法公開でありクルトならやりかねないとエレーヌもまた思っていた。


「こちら側への影響は最小限にする努力はしよう。 だが万が一の場合は近衛のじいさんにも働いてもらうよ。 地球の魔法協会同士が争ってる場合じゃなくなるからね。」

「それしかありませんね。」

「クルト坊やのことは諦めな。 もしアタシ達の推測が間違ってなきゃ奴は越えちゃならない一線を越えたよ。 アタシもあんたを庇うだけでクルト坊やまで手が回らない。 いいかい。 すぐに帰って絶対に麻帆良から出るんじゃないよ! 今まで通りにしてな。」

「……代表。」

「クルト坊やがもう少し時勢と空気を読めたら世界を救えた可能性もあったんだがね。」

エレーヌは文句を言いつつ即座に対応することを約束してくれたが、それでも高畑やクルトのことを目をかけて来た彼女とすればクルトの暴挙は残念で仕方ないようだった。


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