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二年目の春・7

「みんな今日もよろしくね?」

「はい!」

翌日はいつものように横島達と助っ人の美砂達は、坂本夫妻と弟子の藤井と一日だけの麻帆良亭を営業することになった。

すでに限定復活を初めてから半年になり今回などは最初のような騒ぎにはならなくなりつつあるが、それでも遠方からの客や麻帆良亭の元常連が集まってくるのは変わらない。

美砂達に関しては月一のこの日のバイト代が結構嬉しい臨時収入となっていて、横島の店でのちょっとしたおやつ代や洋服代になっている。


「いらっしゃいませ!」

「おはようございます。」

「おう、おはようさん。」

「わし、いつものな。」

一番乗りはやはりいつも来ている近所の年配者達で、この日は店でゆっくり出来ないからと日中は店に顔をあまり出さぬアナスタシアが来なくてもやはり朝一から並んで少し早い昼食を店で食べるようだ。

中には一日で朝と夜の二回来る者なんかも居て限られた時にしか食べれぬ麻帆良亭の味を楽しみにしてる常連が居る。


「まあ、今日はわざわざ北海道から?」

「噂を聞いて来てしまったよ。 いつか行こうかと思いつつ何年も顔も見せなかった癖に、無くなったと聞いたら無償に食いたくなってね。 我ながら愚かというかなんというか。」

なお今回はなんと北海道からわざわざ麻帆良亭に来るために昨日の仕事終わりに飛行機で麻帆良に来て、今日と明日麻帆良を少し観光したら明日の夜の飛行機で北海道に帰るという猛者までいる。

どうも小さな会社の社長さんらしいが話を聞いた坂本夫妻の妻や夕映達フロア担当の少女達を驚かせていた。


「飛行機代凄そう。」

「アハハ、確かに安くはないな。 帰ったらオレも当分は節約しなきゃならん。 でもなお嬢ちゃん。 麻帆良亭の味はやっぱり特別なんだよ。 オレにはさ。 お嬢ちゃんだっていつか特別な料理が出来るよ、きっとね。」

思わず飛行機代の心配をしてしまい口に出した明日菜を元常連の社長さんは笑いながら見ていたが、ふと自身の学生時代を思い出したからな懐かしそうに明日菜や少女達を眺め普段は少女達の憩いの場所となる喫茶店だと聞くといつか明日菜も同じように感じる日が来ると優しく語っている。

店には麻帆良亭時代にはなかったスイーツのショーケースや夕映達が書いたお知らせの貼り紙に商品POPなんかはそのまま残っていて、社長さんは普段のこの店の雰囲気を感じたのか変わってしまった寂しさと残されている店の雰囲気に少し嬉しさを感じながら麻帆良亭の味を味わう。


「じゃあな、坂本さん。 お互い年を取ったが健康には気を付けてまた必ず会おう。」

「はい。 私達は許される限りここで時々ですがお待ちしてますわ。」

社長さんは最後に坂本夫妻と再会の約束をして帰るが、それが果たされるのかは本人たちにも分からない。

ただお互いにその約束を一つの糧にして明日を生きることに変わりはなく、そんな小さな約束もまた本来ならばあり得ない約束であり例え広大な砂漠の小さな一粒の砂の変化ほどの影響しかなくともこの世界の一つの歴史の破片として確かに残ることになる。


「いつか生まれ変わるならまた……。」

社長さんは店を出て麻帆良の街に消えていくが久々に来た学生時代の想い出の街に、もしも人が生まれ変わるのならまたこの街で学びたいとの願いを世界樹に託して翌日には北海道に帰って行った。


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