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二年目の春・7

「よう、那波じゃないか。 元気そうだな。」

「お久しぶりです。 前田先輩。」

同じ頃大学部にある天文部の部室に顔を出した千鶴は中学一年の時に世話になった前田という女性に再会していた。

昨年の春に千鶴が中学二年になる際に卒業して今は社会人として働いてる先輩で千鶴が会うのも昨年の春に以来となる。


「あいつらのこいつ悪かったな。 常々注意してたんだが。」

「先輩のせいじゃありませんよ。 私もいけなかったんです。」

前田は社会人二年目となる今年は仕事にも余裕が出来たらしく麻帆良祭の手伝いをしに駆けつけたらしいが、千鶴の顔を見るなり申し訳なさげに謝罪する。

天文部に入っていた星にろくに興味がない自称千鶴のファンを一年の時に気にかけていて何度か注意してた先輩の一人になるが、千鶴が実害はないからと波風立てぬようにしていた影響もありあまり効果がなく昨年の麻帆良祭での騒動へと繋がっていた。


「いい人に会ったんだな。」

「はい。」

「那波の悪い癖は人の顔色を読みすぎることだったからな。 無意識に周囲が期待して見ている那波千鶴になろうとするもんだから馬鹿が調子に乗ったんだ。」

割と真っ直ぐな性格の前田は常々千鶴にも嫌なら嫌と言えと注意してた人物でもある。

頭の回転が早く人の考えを読むことに長けてる千鶴は毅然とした態度を取る相手と上手くかわす相手を自分の中で分けていて、よほど酷い相手でなければ上手く付き合おうとしたがそれが仇となったのが昨年の件だった。


「噂の人はずいぶん噂と違うらしいね。」

「フフフ、最近は噂に尾びれどころか手足や羽根まで生えてますから。」

「好きにワガママに生きるといいよ。 それが許されるのが学生なんだ。」

どうも彼女も今の千鶴の状況を噂程度に知ってるらしいが、噂と現実の違いを昔と違う中学生らしい千鶴の表情から感じ取ったらしい。


「まあ那波は家も家だから大変だろうけどね。」

「好きに生きていると言えばその通りですよ。 今度は子供扱いされてますけど。」

「那波にはそのくらいがちょうどいいよ。 大人扱いしてちやほやするばかりの奴よりよっぽどマシさ。」

卒業して社会人一年生を終えた前田は千鶴の立場や苦労を自分なりに理解したようだが、学生の間は学生らしく生きればいいという価値観は昔から変わらない。

かつて自分が教えられなかったそんな等身大の中学生として生きる千鶴に前田も嬉しそうだった。


「店は確か麻帆良亭の後釜だっけ?」

「はい。 」

「そのうち見に行くから楽しみにしときなよ。」

「あら、お手柔らかにお願いしますね。」

そして千鶴を変えて僅か一年で麻帆良でも有数の有名人と化した噂の人を見るのを楽しみにしてるようでもある。

千鶴もまた先輩と横島という組み合わせがどんな化学反応を起こすかと少し楽しみなような怖いような心境で一年ぶりの再会を喜んでいた。


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