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二年目の春・7

「まき絵。 本当に良くなったな。」

「本当ですか!?」

さて同じ頃女子中等部の体育館ではまき絵が新体操部の練習をしていたが、顧問の二ノ宮は少し苦笑いしつつも最近のまき絵の成長を褒めていた。


「何て言うか先生が考えてた方向じゃないんだけどね。 でも今のアンタならいい線いくと思う。 一体どうやって今の形になったの?」

横島がまき絵の新体操をちょっと教えてから一ヶ月過ぎたが良くも悪くも素直なまき絵は、あの時の横島のアドバイスを信じて今も練習に生かしていてその成果は確実に結果として現れている。

二ノ宮も当初は自身の指導ではないことから戸惑い見守るくらいにしていたが、時が過ぎれば過ぎるほどまき絵の演技は洗練されていきどうしたらまき絵をここまで変えれたのか指導者として知りたくなっていた。


「うーん。 人に見せることを考えながら演技することですかね。 あとは呼吸のタイミングを少し教えてもらいましたけど……。 分かんないや! マスターに聞いて来て明日教えるね!」

ただまき絵は褒められて成果が出たことを喜びはしたが、彼女のスキルでは何をどう変えたから良くなったかまでは今一つ理解してなく説明も出来るはずがなかった。

ある意味愚直に横島のアドバイスを身体に叩き込んでいただけなのだから。


「人に見せることか。 なんというか噂になるはずよね。」

正直横島のアドバイスはある意味当たり前過ぎて二ノ宮は特に指導したことがないことだった。

普通はみんな見せるために演技をするので当然と言えば当然だがまき絵は見せるよりも自身で楽しんで演技をしていたので、見せる意識が特に乏しい欠点があったのを二ノ宮は見抜けなかったのだ。

加えてちょっとした呼吸のタイミングや身体の動かす僅かなタイミングを修正したことも地味にまき絵の新体操の技術向上に役立っていた。

以前に影の担任という少し高畑を馬鹿にするような意味合いのアダ名が横島にあったことを二ノ宮も笑っていた一人だが、いざ自分がその立場になると自身の指導力不足を突きつけられたようで悔しさと恥ずかしさを感じてならない。


「マスター人に教えるの上手いんですよ。 木乃香達なんてマスターに教わって変わったんですから!」

まき絵には決して悪意はないが横島の人に教える力量の凄さを嬉々と語る姿に、二ノ宮は先輩でもある大学部の新体操のコーチをしてる陣内が横島にこだわっていた訳を今更ながらに身を持って実感した。

何年も本業としている教師や指導者でさえ生徒一人一人を見て指導するなんて出来なくて、指導法に悩み時には失敗したと思うこともあるのだ。

それが部外者のしかも素人に的確な指導をされたとなると笑っていられなくなる。


「先生のことも指導してくれないかね。」

「アハハ、気が向けばやってくれるかも。 マスター気分屋だから。」

割と本気で一度指導法を聞きに行こうかと二ノ宮は考えてしまうが、まき絵は冗談だと受け取ったらしく笑っていた。

出来ないならば学ぶべきだと考える二ノ宮は教師としては真面目で優秀なのだろうが、正直横島は新体操の指導法なんて聞かれても困るだけである。

まき絵も流石に横島が困るのを理解する故に笑っていたのだが、二ノ宮はそんなまき絵の無邪気な笑顔に自身もまたついつい笑ってしまっていた。



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