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二年目の春・7

「変化の札でいいですかね? すぐ作れますけど。」

この日の夕食も賑やかで楽しい夕食であったが少女達が帰ると入れ違うように高畑が訪れていて、少女達が帰ったあとも残って仕事をしていた刀子が居る前で珍しく横島に頼み事をしていた。

人に頼れることは人に頼る横島と自分で出来ることは自分でする高畑は正反対の生き方でもあるが、明日菜の件や超鈴音の問題など時を重ねる毎に互いの信頼は増している。


「週末代表に会いに行くことにしたんだけど、僕が行くとそれだけでまた憶測を呼ぶからね。」

「ああ、あの人のテロ計画のことっすか。 ヒーローも楽じゃないっすね。」

姿を偽るアイテムなどを貸して欲しいと高畑は頼んだのだが、横島の方はクルトの対策を土偶羅と近右衛門に任せていたので頭から抜けていたらしい。

今一つ危機感に乏しい横島に高畑は少し対応に困ったように笑いながら説明するも、横島が高畑をヒーローと例えると本当に複雑そうな表情をした。


「ヒーローか。 横島君にその意図がないことは理解するけど皮肉に聞こえるね。 かつて世界を救った詠春さん達がヒーローなんであって僕やクルトは正確にはヒーローじゃない。 にも関わらず人は僕やクルトをヒーローにしようともするしヒーローから蹴落とそうともする。 現実は物語のように上手く行かないね。」

「高畑先生……。」

「どれだけ同じ理想や同じ未来を思い描いても手段が違うだけで相容れない。 同じ仲間だった者達が分裂して争う。 歴史を見るとよくある組織や集団の典型的なパターンだね。 千年後にはナギや詠春さん達は神様にでも祭られて赤き翼は宗教にでもなってそうで怖いよ。 本当に。」

決断はして覚悟も決めた。

高畑自身が動けば赤き翼のメンバーが表舞台に舞い戻りでもしない限りは誰にも止められない流れになりかねない。

悠久の風の代表であるエレーヌ・ルボーンに託すのが高畑に出来るギリギリの行動なのだ。

それでも共に未来を夢見た盟友とのこんな形での対立に高畑は己にも原因の一端があると後悔しているし、同時に人々のあまりに勝手な希望や欲望を集めすぎた赤き翼の行く末を心底憂いている。


「すまない。 愚痴みたいになったね。 」

「いえ、まあ。 どんな方法を選んでもきっと後悔しますよ。 あとはいかに納得出来る後悔を選ぶかしかないのかもしれないっすね。」

「納得出来る後悔か。」

高畑の状況に横島はかつてアシュタロスとの戦いの最終局面でルシオラと世界を天秤に掛けねばならなかったことを思い出していた。

少し状況は違うが肉親にも等しい盟友に自ら引導を渡すことになる高畑の苦悩は周りには本当のところまでは理解できないのかもしれないと横島は思う。


「君もそうして来たのかい?」

「そうっすね。 そのつもりです。 高畑先生が本当に悩みに悩んで出した結論ならば後悔は残っても必ず希望は繋がりますよ。」

高畑は納得出来る後悔という言葉を使った横島に驚き、つい今まで踏み込まなかった一歩を踏み込み横島の過去へと触れてしまうが。

横島はそれをあっさりと認めつつ希望は繋がるとの言葉をかけて、高畑に僅かな希望の灯火を見せることになる。


そしてそんな二人の会話と様子を静かに見ていた刀子はこの時確信した。

横島もまた大きな何かを背負い今を生きているのだと。

アシュタロスの遺産や魔王をも凌駕したようなその力から、横島もまた世界と向き合い何かしらの結末を迎えたのだろうと確信していた。


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