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二年目の春・7

「マスター! お腹空いた!」

一方店の方には夕暮れを迎えて学校から帰ってきた少女達が集まって来ていた。


「もうちょいかかるぞ。 なんか摘まむか?」

「うーん。 我慢する!」

店に来ると手を洗い厨房に顔を出した桜子は例によって横島に抱きつき帰宅の挨拶というか空腹を訴えるが、まあいつものことである。

ちょうど厨房では今夜の夕食であるトムヤムクンが作られているが、まだ完成してはないしみんなが集まるまでもう少し掛かりそうな頃合いだった。


「ねえタマちゃんは?」

「ああ、タマモは明日菜ちゃんが絵を描くからって二階に行ったのに着いて行ったきりだな。」

「分かった!」

あいにくと料理はあまり得意ではない桜子は手伝うことも特に無さそうなので、タマモに帰宅の挨拶をすべく一旦店を出て二階に上がっていく。

横島への抱きつき癖が目立つ桜子だが彼女は日頃からタマモにもよく抱っこして挨拶をしてる。


「タマちゃんただいま~。 って寝てるの?」

「お帰り。 さっきまでお絵描きしてたんだけどね。」

桜子としてはタマモにも帰宅の挨拶をとリビングに居たチャチャゼロとドジなハニワ兵に声をかけて明日菜とタマモ達が居る個室に行くも、タマモと白いハニワ兵はテーブルを枕にうつ伏せで眠っていた。


「あっ、アスナもタマちゃんの絵を描くの?」

「まあね。 すっかり幽霊部員になっちゃったけど、中学最後だし麻帆良祭くらいは絵を描こうかなって。」

「アスナ上手くなったね。 ぶきっちょだったのに。」

「悪かったわね。 ぶきっちょで。」

明日菜の絵は遊び疲れて眠るタマモと白いハニワ兵の構図になっていた。

まあ一般の人が見れば白いハニワ兵はタマモの玩具か人形にしか見えないが。

しかしその表情はタマモと同様に生きていると見る人が見れば分かるものだった。


「見てると幸せになりそうな絵だね!」

「そう?」

「うん! 前の絵より全然いい!」

よく子供の寝顔は天使のようだと言われるが、明日菜の絵はまだ下書きの段階にもかかわらず桜子には幸せそうな絵に見えたらしく指摘された明日菜も満更ではない表情を見せる。


「前までのアスナの絵ってなんか寂しそうだったからね。」

「うーん。 それはモデルがタマちゃんだからか、私が変わったからかしら?」

「分かんない!」

タマモに負けぬ天真爛漫さがある桜子であるが、時々周囲がドキッとする一言を口にすることがあり今も正にそんな一言だった。

あまり深く考えた発言ではないので詳しく聞いても本人も答えられないらしいが、物事の本質を無意識に見抜く瞬間があるのではと以前横島が溢していたことを明日菜は思い出す。

元々運がいい桜子であるが人見知りしないところや、そんな物事の本質を無意識に見抜くこともまた彼女の幸運の元だろうと言っていたのだ。


「いい絵が描けるんだからいいじゃん!」

「そうね。 そうかもしれないわね。」

桜子のふとした一言で自身のことが意外に周りにはよく見えていたのかもしれないと明日菜は思うも、単純に考える桜子の言葉にクスッと笑ってしまいタマモが起きぬ前にと下書きを続けていく。


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