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二年目の春・7

「代表に頼むのですか?」

「うむ、他に適任者がおるまい。 君の意見も聞いておきたくてのう。」

同じ頃近右衛門の元を訪れた高畑に先日の会合で決まったクルト・ゲーデルへの対策を説明して意見を聞いていた。

高畑自身はすでに直接動くことが出来ぬ立場であるが、高畑の現場での経験は近右衛門達にはないものであるし今回動いてもらう相手である悠久の風の代表であるエレーヌ・ルボーンに関しても一番よく知るのは高畑になる。


「代表は地球側魔法世界側問わず現場をよく知る人です。 適任と言えば適任ですが麻帆良にとっては必ずしも最適かどうかは……。」

近右衛門達とは別に高畑もクルトを止めるというか魔法の公開阻止は必要だと考えていたし、その中にはエレーヌ・ルボーンに頼むという選択肢もあったが麻帆良の為に最善かと言われると少し悩むところだった。

彼女は良くも悪くも二つの世界や親メガロ反メガロを平等に見ているので、場合によっては地球側や麻帆良に火の粉が降りかかる可能性もあると高畑は見ている。


「魔法公開さえ阻止すれば多少のことならこちらも許容するしかあるまい。 今回ばかりは情報だけを流しては済まんじゃろうしの。 それにあまりワシらばかりの利益を求めるとしっぺ返しを食らいそうな気もする。」

「まあ確かに関東魔法協会は少し上手く行きすぎてる感じはしますが。」

「何事も腹八分が理想じゃ。 芦殿とも話したが多少の損失やら問題ならばなんとかなる。 ワシとすれば魔法協会と高畑君をこの件から守れたら良しとしようと思っておる。」

ただ近右衛門はその辺りの損は必要なものだと割り切っていて横島や雪広家と那波家との会合の後に土偶羅の分体である芦優太郎といろいろ話したが、今までが比較的上手く行っているのでここで多少の損失を出すくらいの方が長い目で見るとバランスが取れると考えていた。

世界も歴史も絶妙なバランスの上に成り立っている。

無論魔法公開は今までの近右衛門や土偶羅の努力を無駄にする暴挙なので最悪の場合は力付くでも止めるが、あまりに自分達ばかりが上手く行き利を得るのは要らぬ恨みや疑念を買う可能性も否定できないので多少損をするくらいに納めるのが理想だと近右衛門と土偶羅は見ていた。


「……君がやはりクルト・ゲーデルを見捨てられんと言うならば別の手を考えるが。」

「いえ、それでいきましょう。 今回クルトがどうなるか知りませんが僕が動かぬことで魔法世界にもう助けは来ないことを知って欲しいと思います。 赤き翼はもう存在しないのですから。」

一通り自分達の考えを説明した近右衛門は最後に高畑の意思を今一度確認した。

クルトの革命を阻止して滅びが待ち受けている魔法世界を何もせぬまま現状で存続させるのが近右衛門達の方針であり、魔法世界の人間達だけでも世界を救いたいというクルトの意思を完全に潰すことになりかねなく近右衛門は高畑にそれを強制は出来なかった。

しかし高畑は悩む間もなく近右衛門の案に賛成して自身が極秘にて悠久の風の代表エレーヌ・ルボーンに会うことを決める。


「赤き翼の終りか。」

「それが魔法世界の為になると信じています。」

確固たる決意の元でかつての盟友を見捨てる覚悟を示した高畑もまた魔法世界の行く末を誰よりも案じていた。

共に正反対のやり方で魔法世界を思うクルトと高畑のこの決断が、赤き翼という英雄譚の終りとなり魔法世界の自らの生きる力を呼び起こして欲しいと近右衛門は願わずには居られなかった。

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