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その二

(やはり心の傷は簡単には消えないのでしょうね)

百合子も令子も決して横島を憎んで理不尽な扱いをした訳ではないが、横島の心を傷付けていたのは確かである

一番問題なのは横島本人が、傷ついていた自覚が全く無かった事だった

自覚が無いまま傷ついていった結果が、昔の横島を代表するような自己不信と劣等感の固まりといった形で現れたのだ


(お義母さんには、どうやって理解して頂けばいいんでしょうか……)

横島の事を理解して対応して欲しいと思う魔鈴だが、まさか義理の母親に教育の失敗を突き付ける訳にもいかずに困ってしまう


一方百合子は魔鈴から横島の近況などを聞きつつ、魔鈴本人の事を見極めようとしていた

(この子、本当に忠夫を上手く制御してるわ)

魔鈴の話は百合子にとって驚きの連続だった

決して横島に強制や無理強いはしない魔鈴だが、結果だけ見れば横島を上手く導いているのだ

そんな自分が出来なかった事を、見ず知らずの女がしている事に複雑な感情を抱いてしまう


(僅か数ヶ月でこれほどの関係を築けるものなの?)

百合子自身、恋愛経験が多い方ではない

別にモテなかった訳ではないが、キツイ性格と美しく過ぎる見た目に誰も近寄らなかったのである

百合子本人は仕事が出来すぎる為に男が近寄らないと思っているようだが、問題は仕事よりも性格にある

そんな恋愛経験が少ない百合子にとって、魔鈴と横島の関係は未知の関係だった

結局、この日は何も確証が無いまま休む事になる



そして時間は深夜3時が過ぎていた

いろいろ考えていた百合子は、眠れずに窓から異界の景色を眺めている


「まるでB級ホラーの舞台のような景色ね」

昔見たB級ホラーを思い出した百合子は、思わず苦笑いを浮かべていた

神界や魔界などが実在するのはもちろん知っている百合子だが、実感は無い上にまさか自分が違う世界に来るとは思いもしない

百合子にとって久しぶりの未知の経験だった


「それにしても、私が居るのに一緒に寝るとはいい度胸ね」

ふと思い出していたのは寝る前の事……

美衣とケイが事務所の上にある自宅に戻って、タマモとシロもそれぞれ自室に入っていった時、横島と魔鈴は当然のように同じ寝室に入っていた

まあ一緒に住んでいるのだから一緒に寝ているのも当然なのだろうが、母親が来た時に隠そうともしないのには驚きである

「なんか気になるのよね…… 初めて恋人の母親に会うのに動揺の一つも無いのが不自然だわ」

百合子が来て以来、魔鈴は動揺の気配さえも見せてない

自分に不利な事も隠そうともしない事は、あまりに不自然に思えた

まして魔鈴が対人面でも優秀なのは明らかなのだし、わざと隠し事が無いように見せるために行動しているように思えてならない


この時、百合子が気になっている事こそ魔鈴の弱点だった

その生真面目な性格から、魔鈴は何かをする時には徹底してしまう癖がある

完璧主義とまでは言わないが、魔鈴が百合子との対面にそれだけ気合いを入れていた証なのだが……

魔鈴のそんな優秀さと気合いが、逆に百合子に違和感を与える原因になっていた


カチャリ……


百合子の思考を止めたのはリビングの方からした物音だった


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