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その二

「私、いなり寿司ね」

「拙者は牛肉のあぶりを頼むでござる」

百合子と横島が微妙なやり取りをしている中、タマモ達は早速好みの寿司から頼んでいた


「へい、お待ち」

最初から普通のネタ以外の寿司を頼んだタマモ達だが、大将は慣れているらしく嫌な顔一つしないで握っていく

横島達がここの寿司屋を気に入ってる理由の一つに、大将の人柄もある

魚以外の寿司も事前に頼むと用意してくれるのだ

職人によっては嫌がられる事もある頼み方だが、ここの大将は全くそんな事が無い


「私達は、オススメを一通りお願いします」

一方、美衣とケイの親子は寿司が大好物である

かつては山奥でひっそりと暮らしていたため寿司を知らなかった二人だが、東京で暮らすようになってから食べた寿司がかなり気に入ったようだった

まあ新鮮な海の魚すら食べた事無いケイは、ある意味カルチャーショックに近い感じだったが……


「それじゃあ、私もオススメを頂こうかしら」

そんな感じでタマモ達が一通り頼んだ後で百合子や横島達がが頼み、一同は絶品の寿司を堪能していく

店の規模や外観から見てその味に半信半疑だった百合子だが、一口食べると表情が変わる

あえて口に出さないが、店の規模や外観からは不釣り合いなほど美味しいのだ


(本当に穴場なのね)

少し驚いた百合子が店内を見渡すと、常連らしい客が魚の煮付けを肴に酒を飲んでいる

高級店と言うよりは地域に密着した店なのだろう


その後も横島と魔鈴達は、大将と世間話をしたりしながらの和やかな食事が続いていく


(忠夫……)

楽しそうに魔鈴達と会話する横島の表情に、百合子はこの日初めて柔らかな笑顔を浮かべていた

劇的変化からいろいろ不安や疑問があっただけに、昔と変わらぬ笑顔と現状の幸せそうな息子の姿に百合子は心から安堵しているようだ


(まだ納得はしてないけど、思ってたよりもずっと幸せそうね)

細かな気になる点をいくつか納得してない百合子だが、魔鈴だけで無くタマモ達や美衣とケイの親子とも仲良く暮らしている事は本当に嬉しいようである

まあ突然の成長と親離れには、少し寂しさも感じてるようだが……

その後、和やかな食事を終えた横島達はカオスへのお土産を買って帰っていた


そして自宅に戻った横島達と百合子だが、大方の予想に反して離婚の話などをする事はなかった

初対面の時とは別人のように大人しい百合子に美衣とケイは驚き、横島は密かに警戒している

しかし当の百合子は魔鈴といろいろ話しながら、横島の近況などを聞いているだけであった


横島は百合子が何故大人しいか理由がわからず警戒しているが、魔鈴は初対面で失敗した割にはいい方向に向かっている事にホッとしている

百合子が何気ない会話で探りを入れてるのは理解しているが、強引なやり方を辞めてくれただけでも助かっていた


(忠夫さんは強引なやり方をされると心を閉ざしてしまいますからね。 このまま普通に日常生活から理解してくれるといいのですが……)

魔鈴は百合子と会話をしつつそんな事を考えていた

昔のトラウマと言うか嫌な記憶と言うか、横島は強引に何かを強要されたり理不尽な扱いを受けると反発してしまうのだ

それは百合子にも原因があるが、一番の原因はかつての未来での令子である


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