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白き狼と白き狐と横島

「失礼します。 おふくろ、何か用か?」

横島が二人の居る個室に来たのは、昼食時が終わった後だった

最近増えた出前に忙しかったのである


「ちょっとお前に会わせたい人が居てね。 母さんの友人の如月京子よ」

「初めまして、横島忠夫っす」

百合子に促されるままに挨拶した横島は、そのまま京子に視線を移す


(おふくろと同い年くらいか? 昔は綺麗だったんだろうな~)

年の割には若く見える京子だが、さすがに横島から見ればおばさんの部類に入る

まあ優しそうな見た目から、百合子よりは穏やかな人物かと思う


「私は初めましてじゃないのよね。 忠夫君が赤ん坊の頃会ってるのよ?」

穏やかな笑みを浮かべて少しからかうように話す京子に、横島はちょっと困ったように笑っている


「私はちょっと席を外すから、しばらく京子の相手しててちょうだい」

「ちょっ…… おふくろ!?」

戸惑い気味の横島にしばらく京子の相手をしろと言った百合子は、返事を聞く前に部屋を後にして行く


「百合子は相変わらずみたいね~」

横島と百合子の微妙なやり取りを見ていた京子は、クスクス笑っていた


「相変わらずって……?」

「百合子は昔っから不器用なのよ」

不思議そうな横島に京子は百合子が昔から不器用と言うが、横島は言葉の意味を理解出来ない

幼い頃から主婦として何でもそつなくこなす百合子だけに、何が不器用なのかわからなかった


「あれが百合子の弱点なの」

少し懐かしそうに遠くを見つめる京子は、そのまま百合子の昔話を語り始める


「百合子は昔はモテてたのよ。 才色兼備を地で行くような感じだったしね」

大学時代の百合子はまさに才色兼備と言う言葉がピッタリだった

美しく優秀な百合子は、いつも自然と周りの注目を集めていたのだ


「そんな百合子だけど、どうしても苦手な物があったのよ。 何だかわかる?」

「さあ~?」

横島はいつの間にか京子のペースに巻き込まれていた

楽しそうに語る京子と、始めて聞く母親の昔話に自然と興味をそそられている


「あの子は恋愛がからっきしダメでね~ 自分の気持ちは素直に表せない癖に、相手の気持ちは裏側まで読んじゃうの。 愛情の裏には打算や欲望があるのが当然なのに、それが嫌だって言うんだから彼氏なんか出来るはずがなかったのよね」

京子の語る昔の百合子は、横島にとって理解出来ないものだった

百合子と大樹の夫婦関係からは想像も出来ない事だし、横島自身恋愛経験が少ないためイマイチ理解出来ない


「もっと楽に生きたら違う人生だったでしょうに……」

昔を懐かしむような京子を見つつ、横島は楽に生きたらと言う言葉は何故か少しだけ理解出来る気がした


「あの……、そういえば、俺に何か用っすか?」

いつの間にか百合子の昔話を聞かされていた横島だが、何か違和感を感じている


(この人の視線何か気になるな……)

それは説明しろと言っても説明出来ないような些細な違和感だが、京子には何か他の人とは違う感じを受ける


「う~ん、忠夫君に会ってみたかったってのじゃダメかしら?」

横島の言葉に少し驚きを感じる京子だが、表情に表す事なく穏やかに話を続けていく


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