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二年目の春・7

「でも彼の立場からすると仕方ないとも言えるのよね。 数千万人の人命を救うためならば多少の問題は仕方ないと考えるしかないわ。 数字の上でならば確実に犠牲者は減るんですもの。」

今夜はクルトへの批判的な意見が多い中で近右衛門と詠春は無言であったが、自らの弟子とも言えるクルトのことについて何も言えぬ詠春に代わり穂乃香がクルトの立場を察した意見を口にした。

地球や麻帆良にとっては迷惑千万だし他所に迷惑をかける前に自分達の身銭と命を賭けて問題に取り組めとは思うが、メガロの特権階級は最悪二十年前のように自分達だけ逃げ出せばいいと考えているし自分達の身銭や地位を切り売りして魔法世界の問題に取り組む気もない。

周りが敵とクズと無能ばかりのクルトには少なからず同情する気持ちが詠春や穂乃香にはある。

そもそも現状の近右衛門達や詠春達とて横島側が情報を積極的に集めているので対策が打てているが、それがなくなればクルトのことをとやかく言える余裕など無くなるのはこの場の誰もが理解していた。


「横島君。 君ならどう考える?」

なお会合に参加してはいるが相変わらず自分の意見を言う訳でもない横島は、話し合いをしている近衛邸の庭で七輪にて魚やイカの一夜干しを焼いてはみんなに配っている。

一夜干しは異空間アジトのハニワ兵が丁寧に手作りして天日干しした逸品なので絶妙の塩加減で美味しく、しかも七輪にて炭火で焼いているのでホクホクとした身に香ばしい焼き目がついて最高だった。

ただ相変わらず手間のかかる物を持ち込む横島を周りは少し不思議そうに見ていたが、そもそも横島は元がヘタレな小市民なのでここまで立派な人達の会合ではとりあえず居るだけでいいだろうと食い物や酒に凝るしかやることがないだけなのだが。


「どうって言われても。 俺ならその人とは組まないっすかね。 極端な人と関わるとろくなことなさそうですし。 そもそも魔法公開するより二十年前の真相とか魔法世界の真相をあっちで公開する方が先じゃないっすか?」

この夜は一夜干しの魚介と焼酎で一杯やってる横島は近右衛門に話を振られると少し困った表情をしつつ意見を言い始めるが、はっきり言えば誰も関わりたがらないクルトには横島も関わりたくない。

タイプ的にはかつての知人の西条にも似ているが西条はまだ人の話を聞いたしクルトほど自己中でもなかった。

それに横島とすれば地球で魔法の公開するより魔法世界で世界の真相や二十年前の真相を公開しろよと思うらしい。


「正論ではあるけど、それやると収拾がつかなくなるんだろうね。」

「言えないだろう。 自分達の国は立派な魔法使いの国ではなくただの欲と権力による普通の国だなんて。 アメリカ人から自由と正義を中国人から中華思想を取り上げるようなものだよ。 国を一つに保てなくなる。」

横島の意見は大人達も一度は考えたことだが魔法こそが全ての礎の国の礎にして誇りを奪うような真相など公開すれば、連合は崩壊するのが目に見えていた。

魔法使いの国だと魔法世界一の文明国だと自認するメガロメセンブリア人が略奪と謀略により国を築き拡げて来たなどと知ったら革命の一つや二つ起きる可能性は十分ある。

ただそれよりも問題なのは地球と魔法世界の双方にてそれなりに尊敬を集めていたメガロメセンブリアが一夜にして尊敬も信頼も失えば、メガロメセンブリアの人々を待つのは今までとは違う立場であり国も生活も確実に苦しくなるだろう。

衣食足りて礼節を知るではないが自分達の生活が悪化して周りからは謀略者や侵略者と見られ始めたメガロメセンブリアの人々が、今のような世のため人のためなどといつまで言ってられるかなどたかが知れてる。


「しかし意外に真理は突いとるの。 ここでクルト・ゲーデルが自分達の国を維新する気で真実を明かして世界の為にメガロメセンブリアを犠牲にするというならばワシらの出方も変わるじゃろう。 結局向こうが犠牲や問題をこちらに押し付けようとするからワシらも断固たる処置が必要になる訳じゃしのう。」

クルト自身は紛れもなく赤き翼の一員だったのだろうが、その考え方や手法は必ずしも赤き翼のものではなくむしろメガロメセンブリア元老院の方が近い。

元々高畑は赤き翼に残りナギやガトウと共に目の前の現実を一つ一つ変えていくことをしていたが、クルトは赤き翼と別れて己の価値観で生きてきたのだ。

メガロメセンブリア元老院を敵視しているクルトがその手法は彼らに近いことに近右衛門は皮肉めいたものを感じてしまう。

もしこれがナギや高畑ならば自分達は巻き込まれることに怒りはするが最終的には協力する気もする。

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