それは年の瀬も押し迫った年末の事だった

唐巣の教会の奥にある居住スペースには、殺風景でテレビどころかラジオも無い部屋がある

古びた机と本棚とベッドだけの今時の日本では珍しい部屋の主は、ピートであった


そんな自室で年末の大掃除をしながらも、ピートは上の空で考え込んでいる

（横島さんと魔鈴さんがあんな関係だとはな～）

先程横島と魔鈴の二人に会ったピートは、思いもしなかった事実を知りいろいろと考えていた

横島は恋人を否定していたが、どう考えても友人には見えない

まあ横島が自分で言うよりモテてるのを知っているピートは、モテるのは別に驚きでは無いのだが……


（まさか美神さんの事務所を辞める気だとはね）

横島が令子の事務所に就職するのは誰が考えても当然だった

横島自身も以前からそのような事を言っていたのだし、横島と令子の関係を知る者は疑いもしなかっただろう


（あの時見えた感情は、確かに怒りに見えたんだよね）

横島から軽く説明を受けた時、ピートは横島が令子に対して怒りに近い感情をしていた気がしている


ピートはその理由をずっと考えていたのだ

待遇や扱いなど嫌になる要素ならいくらでもあるが、横島がそんな事で令子を嫌うならとっくに辞めているだろう


（まさか……、あの事件がきっかけでは……）

ピートの知る中で横島が令子を嫌う原因があるとすれば、一つしか思い浮かばない

今は誰も口にする事が無くなったあの事件

結果だけ見れば当事者であるはずの令子は幸せになり、巻き込まれた横島は……


（欠けた魂の子供への転生なんて聞いた事が無い。　そんな夢物語で横島さんが納得した事が不自然だったのかも）

いろいろ考えた末にピートが引っかかったのは、やはりルシオラの事だった

今思えば具体策も無い僅かな可能性の話で、横島が納得した事が不思議である

あの事件の後ですぐに元気になった横島を見て誰も気にしなかったが、改めて考えるといろいろ不自然すぎるのだ


（だとすれば、恐らく美神美智恵さんの事も同じはずだな）

仮に横島が令子に怒りを感じ離れようとする理由がアシュタロス戦にあるのなら、令子だけでなく美智恵も同じはずだと思う

そしてピートにとってはそちらの方が問題だった

実は高校生三年になる前後から、ピートは美智恵にオカルトＧメンに入るように勧誘されている

何度か教会に足を運び勧誘されるうちに、ピート自身は高校卒業と同時にオカルトＧメンに入ろうかと思っていたのだ


まだ正式に決めてはいなかったが、ピート自身がかなりその気になっているのは美智恵も理解しており、二月中にでも正式に手続きして欲しいと頼まれていたのだった


（オカルトＧメン入りの返事は、先伸ばしにした方がいいな）

憶測で判断するのが嫌なピートは、横島が卒業後にどう動くか見てから将来を決めようと思う

まあ横島はピートがオカルトＧメンに入っても対応が変わらないのはわかっているが、令子と横島の関係が破綻すればどんな状況になるかわからない

最悪美智恵に利用されて令子と横島のパイプ役にされる可能性も考えられるだけに、ピートは状況を見極めようと決めていた