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その一

横島がベスパを連れて行ったのは近くにあったカフェであった

周りは楽しそうなカップルの中、横島は複雑そうなベスパにゆっくりと声をかける


「なんかあったか? もし困ったことあれば話してくれよ。 俺なんかじゃ力になれないだろうけど… でも1人で悩むよりは楽になるぞ?」

先ほどまでのへらへらした表情とは違い、横島は心配そうにベスパを見つめていた


(ベスパ… アシュタロスやルシオラの事、気にしてるんだろうな)

横島が少し強引にベスパをここに連れて来たのには訳がある

それは、あの時のベスパがあまりにも苦しくツラそうだったか、横島は放っておけなかったのだ



「あんたは、元気そうだね」

しばらく間が開いてようやくベスパはポツリと言葉を口にした


「ああ、俺の中にはルシオラが居るからな。 感じるんだ。 命の温もりが… ルシオラの魂が… いつも俺を励まし包んでくれてる」

幸せそうに語る横島をベスパは静かに見つめている


「俺さ。 お前とパピリオの事、本当の妹のように思ってる。 頼りない兄だけどな」

苦笑いしながらも、自分を励まし元気付けようと必死な横島を見て、ベスパはつい笑ってしまう


「フフフ… お前は変わらないね。 姉さんが好きになった頃のままだ。 いや、少しまともになったかな? 今日はセクハラしてないしね」

何故かはわからないが、ベスパはそんな事を口にしていた

横島を見ていると悩みや苦しみが安らぐ気がしている


「いや~ さすがに妹にセクハラは出来ないよ~」

笑顔を見せたベスパに、横島もホッとしたようで笑って答えていた


(本当にお人好しのバカだね… あたしの心配までするなんて… でも、姉さんがなんで横島を愛して守ったかわかる気がするよ)

横島の優しさにベスパは、心の中のわだかまりが溶けて新しい感情が芽生えていく気がした


(姉さん… 姉さんが生まれ変わるまで、横島を借りていいかな?)


ベスパは突然、ホッとして気が抜けたような横島の腕を組み街に歩いていく


「ベッ… ベスパ!?」

先ほどまでとうって変わって笑顔のベスパに横島は安心するも、まるで恋人のように腕を組まれて緊張してしまう


「兄妹なんだろ? パピリオのプレゼント一緒に選んでくれないか?」

緊張気味の横島を見て、ベスパは嬉しそうにパピリオのプレゼントを探しにいく


「ベスパは妹… ベスパは妹… ベスパは妹…」

横島は腕に当たる幸せな温もりに暴走しないように呪文を唱え続ける

そんな様子を面白そうに見つめながら、ベスパは横島の耳元でささやく


「あたしはいいよ。 妹じゃなくても… なんなら姉さんの母親になっても…」

耳に息があたるくらいに近づいたベスパの言葉に、横島は顔を真っ赤にしてしまう


「ベスパッ!? からかうなよ!」

真っ赤な顔と煩悩を冷ますように横島は先ほどと同じ呪文を唱えるが…


「んっーー!!」

横島の呪文を打ち消すようにベスパの唇が横島の唇を塞いでいた


「あたしは本気だよ。 信用しないなら妙神山に行く前にもっとする?」

唇を離したベスパは妖艶とも言える笑みを浮かべていた


一方横島は、真っ白になった頭の中で、ベスパが魔族だったことを思い出していた

(ルシオラ… 案外早くお前に会えるかもしれん)

ベスパの妖艶で美しい笑みに、横島の中で妹と言う理性は完全に消滅していた


この後、変わった2人関係にいろいろ騒ぎが拡大するのだが…

それはまたの機会に……


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