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二年目の春・6

「……クルト君。」

同じ頃近衛邸には急遽詠春が土偶羅による瞬間移動によりやって来ていて、クルト・ゲーデルのことを近右衛門と土偶羅の分体の芦優太郎と話していた。

すでに事実は雪広家と那波家にも伝えられたが、流石に今日の今日では両家とも集まれなかったが詠春だけは時間が取れたので密かに来ている。


「婿殿にはショックなことかもしれんが。」

自ら望んで取った弟子ではないとはいえ教え子のクルトの暴挙とも言える計画に詠春の表情は冴えない。

近右衛門もまた娘婿である詠春の気持ちを慮ってあまりに感情を表に出してないが、今までと違い今回ばかりは決定的な対立になることは避けられそうにない。


「難しいですね。 人が生きると言うことは。」

共に魔法世界の為に戦った仲間であるクルトの決断に詠春は近右衛門ほど一概に否定出来ない自分に困惑していた。

無論認めることもないし人の気持ちを考えてない暴挙だとも思うが、一方でクルトの立場からするとどうしようもないのは明らかでもある。


「高畑君には?」

「まだじゃ。 婿殿には悪いがワシはクルト・ゲーデルを見殺しにしてでも高畑君は見殺しには出来ん。 高畑君はどうするかのう?」

ただここで近右衛門ですら迷いを見せたのは高畑にこの件をどう伝えるかであった。

近右衛門としては今回ばかりは見過ごせぬし自分達が表に出ずに阻止しなくてはならないが、それは政治的に死んだも同然のクルトに物理的にトドメを刺すことになりかねない。

ネギの去就から一年、クルトは影で怪しげな動きをいろいろしていてメガロメセンブリア中枢もそろそろ我慢の限界だろうと近右衛門は見ている。

クーデター計画で捕らえ法の裁きにかけ死刑にするか密かに暗殺するか。

どちらにしても魔法公開とクーデターが露見すればクルトは生かしておかれないだろう。

今まで沈黙を貫き我慢してきた高畑であるが、盟友の本当の最後にどうするかは近右衛門にも分からなかった。


「動けぬでしょうね。 明日菜君の為にも麻帆良の為にも魔法世界の為にも。」

「今動けば仲間だと思われるからのう。」

正直クルトと何度か顔を会わせた程度の近右衛門とすればクルトの生死より高畑が心配であり、詠春もまた現状を鑑みればクルトよりは高畑を優先させる。

もしかすると高畑ならばクルト一派の計画を穏便に止められるかもしれないが、それをすればメガロメセンブリアに高畑も仲間だと見られ兼ねない。

魔法公開の計画は未だメガロメセンブリアには漏れてないが一部の軍の将校がクルト一派と連絡を取っているのはメガロメセンブリアでも掴んでいるのだ。

土偶羅の予測ではクーデターの成功率はほとんどなくクルトと側近は地球側に逃亡するだろうと見ていて、高畑が下手に動けば高畑は元より麻帆良にも疑惑の目が向けられると考えられている。

詠春もまた今高畑が動けば巻き込まれるのを理解していて動けないだろうと口にするが、高畑のことを思えば本当に気が重くなる。


「出来ればギリギリまで大人しくチャンスを待っていて欲しいのだがな。 奴はメガロメセンブリアを纏めることが出来る能力がある。 放っておいても十年もしないうちに世界が動くというのに。 堪え性がない男だ。」

一方の土偶羅はクルトの能力があればこの先訪れるであろう魔法世界の危機に際して、メガロメセンブリアを筆頭に連合を纏めることが出来る存在として密かに期待していた。

現時点では介入するかしないかすら決まってないが、万が一自分達が動く際に協力とまではいかなくてもそれを利用して連合を纏め人々を救える可能性のある数少ない人物ではあるのだ。

あくまでも土偶羅の一方的な考えであるが、機会を見極める能力に乏しい男だと芦優太郎は呆れ気味だった。



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