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二年目の春・6

「本当にいいのか? ゲーデル。」

一方メガロメセンブリアのとある場所ではクルト・ゲーデルと同志達数人が集まっていた。

赤き翼の名声を土台にしたクルト一派は一時期はメガロメセンブリア元老院でも無視できぬ規模であったが、ネギの去就への介入以降は坂道を転げ落ちるように衰退しており今ではかつての勢いを見る影もないほど少数の人間しか残ってない。

近右衛門がもし麻帆良にネギを受け入れていれば恐らくは彼の一派のここまでの衰退はなかったのだろうし、高畑が手を差し伸べていてもそれは同様だろう。


「他に方法などないでしょう? 世界を正さねばメガロメセンブリア五千万の民は救えません。 少々の混乱は仕方ないのですよ。」

以前から度々説明しているがクルトと高畑は互いに手法や価値観が違えど共に世界の為にと協力して来ており、ある意味対極にいるやり方だった故に互いが互いのブレーキとなりフォローしあう形でここまでやって来ていた。

結果として高畑が居なくなるとクルトは赤き翼の支持者の大半を失い、その思想や選択肢はより過激になり始めている。


「旧世界における魔法と二十年前の真相の公開と、一部の軍によるクーデターか。成功してもしなくても歴史がひっくり返るな。」

「本当に大丈夫なのか? 旧世界の同胞がかつての魔女狩りのようにならにいのか? それに帝国が黙ってないだろう?」

ここに来てクルトはメガロメセンブリア掌握の最終手段としてとある計画を立てていたが、それは旧世界において魔法を公開してその混乱に乗じて一部の軍と共同でクーデターを起こす計画だった。

まともな人間ならば冗談だろうと笑ってしまうだろうが少なくともクルトと側近は大真面目であり、彼らが取れる手段で旧世界と呼ぶ地球への帰還させることが出来る数少ない選択肢になる。

尤もあまりに常軌を逸した計画に同志からも疑問の声が出るが姫御子の存在も未だ判明せず、鍵を握る高畑や詠春が動かぬ以上は無理矢理にでも地球側に魔法世界の存在を明らかにして巻き込むしか方法はない。

ただクルトの恐ろしいところは仮にクーデターに失敗しても魔法と二十年前の真相を公開をしてしまえば地球側を魔法世界の問題に巻き込むことが出来るので、メガロメセンブリア市民を地球側に移住させることが今より容易になるとの計算があるところだろう。

魔法世界より人権に煩い地球側の人々に真相のが明らかになれば魔法世界の限界の問題に無関係を決め込めないだろう。

正直クルトもクーデターが成功するとはあまり思ってなく、クーデターは魔法公開の計画を隠すためのカモフラージュでしかない。

実際クルト一派でも魔法公開まで知るのはクルト自ら選んだほんの数人のしか居なく、他はクーデターしか知らぬまま準備を進めている。

ある意味クルトは数少ない味方を生け贄に魔法世界の救済をするつもりだった。

地球と魔法世界の双方に多大な犠牲と混乱が起きるだろうが、それでも一人でも多くのメガロメセンブリア市民を救うことが出来る。

政治的にも死に体で赤き翼の仲間や支持者にまでそっぽを向かれたクルトに取れる最後の手段だった。


「この世界は弱肉強食なのです。 生き残る為には喰わねば生き残れません。 ナギも居なくタカミチですら我らを見捨てたのです。 ならば我らが旧世界を喰わねば生き残れません。」

クルトの計画はパンドラの箱を開けるようなものではと集まった同志の一人は密かに思うが、ナギも居なく高畑にまで見捨られた世界を救うには最早彼らには選べる手段など限られていた。


しかしそれは歴史の揺り戻しという彼らが知らない力が働いた結果なのかもしれない。

超鈴音が放棄した魔法公開の計画を彼らが進めようとしているのは。

そして彼らは知らない。

神々と魔族を纏めて敵に回して生き残った者が常に監視していることを。

平和な麻帆良から遠い場所で歴史は静かに動いていた。


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