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二年目の春・6

「よう、商売繁盛だな。」

「おう、もうすぐ終戦二十年だしな。」

一方魔法世界の辺境のとある町は今までにないほど活気に溢れ発展していた。

そこは魔法世界に派遣している土偶羅の人型分体の一体が始めた運送会社がある辺境の町である。

ほんの一年ほど前までは何処にでもある田舎町だったそこは今や周辺の辺境地域でも一二を争うほどの都市になりつつあり、その中心にあるのが土偶羅の分体がかつての主から名を取り作り上げたイシュタル運送だった。

魔法世界での大戦終結から二十周年になるこの年は魔法世界各地で記念式典や関連行事が目白押しで、それだけ普段はあまりない人や物の流れが生まれると商機が生まれる。

イシュタル運送はその流れに見事乗り、現在はかつて一隻だった空中船を二隻の体制にするほど仕事が増えていた。


「この缶詰ってのもよく売れるよなぁ。」

「連合の支配地域だと前からあったらしいがな。 どうも旧世界から来た物らしい。 社長は旧世界からの流れ者らしいからな。 この手の技術はお手のものなんだろう。」

加えて少し以前にはイシュタル運送に食品加工部門が出来ており近くには缶詰工場を建ていたが、この缶詰が辺境のみならず帝国や連合にアリアドネーなどで売れ始めている。

何より人件費などのコストが安いことと日本のように品質管理を徹底したことで安くて美味しい缶詰として人気になり始めていた。

相変わらず関税と複雑な手続きが大変であったがそれを加味しても地域に与える影響は大きく、何より連合・帝国・アリアドネーに属さぬような辺境だけに何処とでも取引出来るのは強みであった。

缶詰に関しては地球の技術としてメガロメセンブリアを筆頭とする連合にはだいぶ前からあったらしいが、他の地域では物珍しい珍品として少数入る程度だったらしい。

やはり関税が高いことや帝国などでは連合製というだけで避けられていたという事情もあるし、食料品保存に関しても類似する魔法技術が魔法世界にあったことも缶詰が普及しなかった原因だろう。

ただまあ安くていい品は何処でもそれなりに受け入れられていて、帝国やアリアドネーでは珍品の一種として扱われているが所詮は辺境の工場の生産力なのでそれで十分である。


「この酒も美味いよなぁ。」

「この地域の地酒だってさ。 今じゃ地元の連中が競って造ってる。 うまい酒は何処でも欲しがるからな。」

更にこの地域で昔から造られて地元の連中が飲んでいた酒も連合や帝国で密かに人気が出ていて、地元の連中が在庫を片っ端から売って慌てて今年の分を増産していた。

こちらはイシュタル運送は関わってなく地元の人達が細々と自家製として生産していて、地域の有力者なんかは人を雇い増産しようとしてるものの原料の増産から始めなくてはならないので当面は販売できる数が少なくプレミア価格が付き値段が高騰している。

酒に関しては関税が高くても飲みたい人は買うというか高い方がよく売れるほどであり、地元には成金が出始めるほどだがイシュタル運送ばかりが儲かるのは良くないのでちょうどいいという事情がある。

そしてこの日この辺境の町を仕事で訪れていたのは、本来の歴史においてまき絵と裕奈を助けるはずのジョニーという小型空中船での運送業をしてる男であった。

同業の虎獣人のトラゴロウと共に彼は本来とは違う歴史になっても逞しく生きていた。



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