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二年目の春・6

「第三皇女って確か……。」

「帝国の英雄っすね。」

高畑としては驚きを持って受け取られたテオドラの来訪であるが、刀子と横島はどっちかと言うとあまり関係ないので他人事のように聞いていた。

魔法世界では赤き翼の仲間とも最大の支援者とも言われるテオドラは同じ帝国出身者としてはジャックラカンと共に戦争を終結に導いた英雄の一人である。

皇家の人間が赤き翼と共に戦争を終結に導いた成果は魔法世界では果てしなく重く、同じ魔法世界の大国であるメガロメセンブリア率いる連合の政治家が最後まで役に立たなかったこととよく比べられる。

君主制国家の帝国と民主制国家の連合という地球では旧体制と新体制のような水と油ほど違いがある政治形体の両国だが、魔法世界の一般的な評価は今のところ二分していた。

その原因の一つがテオドラの活躍であるし、そもそもの問題として民主制国家である連合は結局民主制の押し売りをしながら支配地域を広げるので必ずしも民主主義の評判がいい訳ではない。

更に帝国にも枢機院という議会の権限を弱めたものが皇帝の下に置かれていて爵位がない者も選出されている。

皮肉なことだが君主制国家である帝国は魔法世界に生まれた者達が集まって出来た国家なので種族による差別が少なく、魔法が使えないからと言って差別されることもないので人種には寛容であった。

加えて個人の能力や寿命すら違う魔法世界ではそれぞれの種族が伝統的に行っている統治体制があり、帝国はそれを帝国法の元である程度認めていたので統治体制はばらつきがあるが意外に上手く纏まっている。

まあ貴族と皇家による支配であることに代わりはないが実力がある存在を認める習慣もあるので、貴族に関しては入れ替わりが意外に激しく競争原理が働いてることも帝国が民主制国家に対抗できてる由縁だろう。

さすがに上位貴族や種族を纏めてるいわゆる自治領はほとんど変わらないが。

大雑把に説明すると魔法世界に元から居た者達は根本的に、よそ者である連合側の地球からの移住組や彼らのやり方を好まぬという二十年前の大戦の原因に繋がる根深い対立がある。

魔法至上主義と形ばかりの民主制を引き下げ魔法世界の文化や歴史に関係なく、自分達の支配地域を広げる連合が魔法世界全体としてみるとあまり好かれないのは長い歴史の結果でもあったのだ。


「あんまり関わってもいいこと無さそうね。」

「そうっすね。」

テオドラの麻帆良訪問はそんな複雑な魔法世界の情勢に一石を投じることになりかねないが、刀子と横島ははっきり言うと帝国も連合もあまり関わりたくないと冷めた様子で近右衛門の話を聞いていた。

無論関東魔法協会として必要な交流であることは理解するも深入りするとろくなことにならないのは、魔法世界も地球も問わず歴史を見れば分かることである。

とりあえず自分達にあんまり関係ないことにホッとしているし関わりたいなんて全く思ってない。

一応魔法世界の崩壊に関しては様々な可能性を検討して一部は準備もしているものの、横島自身に救う気があるかと言われると現時点ではないのだ。

別にテオドラが好きとか嫌いとか帝国が好きとか嫌いとかではないが、そもそも横島は権力者にあまりいいイメージはないし近右衛門はどちらかと言えば例外だと見ている。


「そういえばテスト勉強の方はどう?」

「まあまあっすかね。 まき絵ちゃんがちょっと苦戦してますけど。」

実際テオドラの一件は横島や刀子にはあまり関係ないだろうと二人は早々に別の話に切り替えてしまい、近右衛門は少しだけ自分が引退したあとの帝国や魔法世界との関係を心配することになる。

まあ魔法世界が残っていればの話だが。



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