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二年目の春・6

そしてこの日の夕食だが、横島が勉強を教えてる関係で木乃香と明日菜の二人で作ることになる。

勉強をしてる常連達にも聞くと夕食を食べるということなので、何時もに増して大量の夕食が必要な事から二人はポークカレーを作るべく調理を開始していた。


「そう言えば寮に引っ越した初日の夕食もポークカレーだったわね。」

「明日菜覚えてたん?」

「流石に初日の夕食くらいはね。」

時間と量の関係から市販のカレールーを使っての普通のカレーになるが、麻帆良カレー以外の普通のカレーも横島達は好んでよく作る。

ただ明日菜は木乃香と女子寮で暮らし始めた初日の夕食がポークカレーだったことを思い出すと、ふと懐かしさが込み上げて来てしまう。


「今思えば中学生になるんだって喜びより高畑先生と縁が切れることの寂しさの方が大きかったわね。 そんな夜だったのよ。」

物心着いたというか麻帆良に来る前の記憶がない明日菜にとって高畑は紛れもなく家族であり肉親だった。

しかし中学入学する頃になると明日菜には実の肉親ではない高畑に対し申し訳ない気持ちなどもあったし、何より高畑もそろそろ恋人が出来て結婚を考えるべき年齢なのは分かりきっていた。

無論明日菜自身も高畑に対しては肉親としての親愛に恋心が混じった複雑な気持ちを抱えていたが、高畑に対して中学入学を機会に先生として向き合うと決めたのは他ならぬ高畑のことを思ってというのが大きい。

自分は一人ぼっちになったのかもしれないとの寂しさが頭を過った夜に木乃香が作ってくれたのがポークカレーだった。


「ウチも寂しかったわ。 お父様やお母様と離れるのにようやく慣れたけど、今度はお爺ちゃんとまで離れて暮らすんやもん。」

「あれから二年半ね。 案外早かったわね。」

「ほんまや。」

一方の木乃香もまた初等部入学に続き祖父と離れて暮らさねばならないことに寂しさを感じていたが、新しい友達が出来たり部活に入ったり明日菜は新聞配達をしたりしてるうちに二人とも中学生活に慣れていた。

そして中学一年も終わろうとしていた頃、二人は運命にも思える人物と出会ってしまう。


「ねえ、木乃香。 もし明日起きて子供の頃に戻ってたらどうする?」

「それは困るわ~。 でも、同じようにして明日菜とか横島さんとかタマちゃんとかみんなと会えるように生きると思うわ。」

「私ね、時々思うの。 これは夢で本当の私はどっかで全く別人として寝てるんじゃないかって。」

「ふふふ、横島さんとタマちゃんなら夢の中だろうが異世界だろうが起こしに行くえ。 きっと。」

長いようで短かったなと感じる明日菜だが、心の奥底に眠る何かを無意識にも感じるのか微かな不安があるらしい。

だが木乃香はそんな明日菜の微かな不安を笑い飛ばしていた。

冗談抜きでそんなことがあれば夢の中だろうが異世界だろうが起こしに行くのだろうと木乃香は確信しているし、明日菜もまたそうだろうと思う故に釣られるように笑いだしてしまった。

その後も二人は思い出のポークカレーを煮込みつつ、過去の思い出を懐かしみ未来の夢を語って行くことになる。





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