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その二

そしてその日の夕方、遂に魔鈴事務所をあの人物が訪れていた


「初めまして、忠夫の母です。 息子がいつもお世話になってます」

にこやかな笑顔で挨拶するのはもちろん百合子である

その第一印象は未来とはまるで違い、にこやかな笑顔に隠された凄まじい迫力が見え隠れしていた


未来においては出会いから良好な関係を築いていた魔鈴と百合子だったが、それはアシュタロス戦や美神親子の存在があったからである

横島の一番苦しい時期を支えた魔鈴を、百合子は誰よりも評価していたのだ

しかし、この時代ではそれがない


「初めまして、魔鈴めぐみです」

そんな中、魔鈴もまたにこやかな笑顔で百合子に頭を下げる


(私は試されてるのですね…)

良く知る義理の母親の行動を魔鈴はすぐに見抜いていた

未来においてアシュタロス戦前に百合子が令子の元を訪れた話は、本人から何度か聞いている

過去に戻った今、その対象が自分になった事に魔鈴は複雑な気持ちを抱いてしまう


「お世話になっているのに、挨拶が遅れて申し訳ありません。 さぞご苦労をされたでしょう?」

和やかな口調で話し始める百合子だが、未来を知る魔鈴からするとその口調が本心で無いのは簡単にわかる

やはり未来を知る分、魔鈴が少し有利なようだ


「そんな事ありませんよ。 私の方こそ横島さんにはお世話になってます」

笑顔で答える魔鈴を百合子はまっすぐ見つめており、その笑顔の裏を探り魔鈴の本心を見極めようとしている


「どうぞ…」

そんな時、美衣が百合子にお茶を持って来た


「あら、あなたは?」

「私はここで住み込みで働かせて頂いてます美衣と言います」

お茶を持って来た美衣を見て、百合子は少し驚く

魔鈴事務所に従業員がいるのは調査済みだが、美衣の容姿は本当に美しい

魔鈴と比べても見劣りしない美しさに、百合子は横島との関係を疑ってしまう


「忠夫はセクハラなどしてませんか? あの子のスケベは父親似で…」

突然そんな話を始めた百合子に、美衣はキョトンとした表情を浮かべる

言葉の裏に別の思惑があるのは感じる美衣だが、その質問はあまりに横島とは掛け離れていた


「えっと…、横島さんには大変良くして頂いてますよ。 息子とも遊んでくれますし」

一瞬百合子の思惑がわからず返事に悩む美衣だったが、結局は素直に今の横島の姿を答える


一方百合子は、セクハラの言葉に驚く美衣を見て考え込んでいた


(どう言うことなの? おかしな事を言ったような顔をされるなんて…)

嘘やお世辞ではなく驚き困惑する美衣に、百合子はますます横島の現状がわからなくなる


確かに事前の資料では横島の女性関係はきれいだったが、誰よりも横島を良く知る母親なだけに簡単には信じられないようだ

そんな百合子が考え込んでる間に美衣は部屋を後にして、事務所は再び魔鈴と百合子だけになってしまう


「今の横島さんは以前と比べれば、本当にしっかりしましたよ」

表面上は笑顔で動揺を隠す百合子を見ながら、魔鈴は考えていた

今の横島を見ればそのあまりの劇的変化に、百合子は疑問を感じるだろう


(未来の事… 隠し通せますかね)

自分達が未来から来た事まではバレないと思うが、普通じゃない秘密があるのは悟られる可能性が高い

義理の母親との新たな関係を築く上でも、下手な嘘は命取りになる

魔鈴は難しい判断を迫られていた


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