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その二

さて横島達の料理は中盤に差し掛かっていた

スープを煮込んで肉料理の下準備をするのだが、やはり横島だけが目立ってしまう

もちろん愛子や加奈達も決して下手な訳では無いのだが、包丁裁きや料理のやり方が普通の家庭料理のやり方なのだ

それに対して横島は家庭料理のやり方など知らない為、プロの動きである

この辺りは仕事でしか料理をしなかった横島の奇妙な弱点と言えた


「え~と、その調子で頑張って…」

愛子達には細かなアドバイスをする料理人達だが、横島には特にアドバイスをすることが無い

いっそこのまま働いて欲しいとさえ思っていた


「はあ…」

横島としては明らかに驚きの視線で見られているのを感じており、あまり目立たないようにしたいのだが方法がわからない

体に染み付いた動きや癖は簡単に変わるものでは無く、まして仕事以外で料理をした事が無いため加減がわからないのだ



そんな時、厨房には突然の大量予約が入って来る

横島達が職場体験しているこの日も、ホテルは営業しておりレストランも客はそこそこ入っていた

職場体験があるのは昼過ぎから夕方までの比較的暇な時間だったのだが、突然の大量予約に厨房は職場体験をしている余裕は無くなってしまう


そんな中で厨房はすぐにピリピリした空気に変わり、料理長の指示で若手が仕込みを始めていた


「私達、邪魔みたいね…」

さっきまでとは全く違うピリピリした空気に、加奈はビビったようにつぶやく

それは愛子や他の女子も同じで、本当の忙しいレストランの厨房を前に言葉がでないようだ


「ゴメンね。 とりあえず、少し休んでて。 一段落したら続けるから…」

先ほどまで指導していた料理人も、横島達に申し訳なさそうに謝り仕事に取り掛かる


それから横島達は厨房の隅で大人しく料理人達を見学していたのだが、暇を持て余した横島は愛子達に料理人達の様子を解説し始めていた

「あの鍋、火が強すぎるな。 アクが出て使えなくなるぞ」

「えっ!?」

始めは作る料理や工程を説明していた横島だったが、若手料理人が目を離した鍋が危ないと言い出す

愛子達はそれに驚き見つめるが、やはりイマイチわからない


「教えた方いいかな…」

しばらく見ていたが誰も火が強すぎる事に気付かないため、横島は教えた方がいいか迷ってしまう


「あの… 鍋、危ないですよ」

せっかく気が付いたのに食材を無駄にはしたくない

横島は迷ったが、そんな気持ちから恐る恐る近くに居た料理人に鍋が危ないと教えに行っていた


「えっ!?」

忙しい時に声をかけられて料理人は一瞬苛立ちの表情を浮かべるが、鍋を見て慌てて火加減を調整する


「いや~、ありがとう。 今日は急に休みが多くて厨房がギリギリなんだ」

「じゃあ、簡単な作業を手伝いますよ」

「え~と…」

慌ただしく手を動かしながら働く料理人に、横島は思わず手伝いを申し出るが相手も困ってしまう

いくら職場体験とはいえ素人は使う訳にはいかない

どうするか考える料理人だが、忙しいために判断出来なかった


「あっ、こっちもそろそろっすね」

結局横島は、返事を貰えぬまま人手不足の作業を手伝ってしまう


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