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白き狼と白き狐と横島

次の日、都内のある総合病院に西条の姿があった


「打撲ですね。 骨折はしてないようですが、無理は禁物ですよ」

医師の説明を聞く西条の表情は疲れた様子である


「ありがとうございました」

医師にお礼を言い診察室を後にする西条は、疲れと悔しさでいっぱいの表情だった


さて何故西条が打撲したかと言えば、昨夜一人で一か八か被害者の降霊を行ったためである

深夜にオカルトGメンの事務所に戻った西条は、警視庁から霊視やサイコメトリーのために借り受けていた被害者の遺品を使い単独で降霊会を開いていたのだ

しかしその結果は打撲から見てもわかるように、西条の降霊は失敗している

数多の魂から特定の相手を現世に呼び出す降霊術は、非常にデリケートで難しいものなのだ

プロの降霊術を使う専門家ですら失敗はよくある事だし、魂の相性や条件によっては呼び出せない事がある

そんな難しい術を、専門外の西条が簡単に出来るはずもがない


事前の準備が不足だった事もあり、西条が呼び出したのは誰とも知らない悪霊だったのだ

体調さえ万全ならば西条が遅れを取るレベルの悪霊ではないのだが、連日の勤務外の捜査で西条の疲労は本人が思ってた以上に蓄積していた

呼び出した悪霊は西条が除霊をしたのだが、その時にフイを付かれて足を打撲していたのだ



「さてと、言い訳を聞きましょうか?」

診察室を出た西条を待っていたのは、一見にこやかな笑顔を浮かべた美智恵である


(嫌な予感がして早く出勤して見れば、こんな事になっていたなんて……)

深夜から霊感が騒いだ美智恵が朝早くオカルトGメンに出勤して見つけたのが、降霊に失敗して気絶した西条だったのである

さいわい怪我も大した事なかったが、命令無視で降霊をした西条に美智恵は怒りを抑えきれなかった


「すいませんでした」

にこやかな表情とは裏腹に、美智恵の怒りがピークに達しそうなのを西条はヒシヒシと感じている

病院と言う公の場所なだけに一見笑顔なだけなのだ


「とりあえず事務所に帰ります」

話は事務所に帰ってからすると言う美智恵に、西条は無言で着いていくしかなかった

そして事務所に戻った美智恵は昨夜の事を一から説明させたが、西条から魔鈴の名前が出た事で表情が一変する


(まずいわ)

降霊のパートナーと霊波追跡能力を持つタマモとシロの協力を求めて魔鈴の店に行ったと話す西条を、美智恵は固まったまま見つめていた

横島を嫌悪する西条が横島に着いて行ったタマモとシロに協力を求めるなど、美智恵は思いもしなかったのだ

かつての横島と西条の関係は、令子を挟んだ関係で良くも悪くも成り立っていた

令子を巡る感情的な争いから対立してモメるが、令子が居るからこそある程度協力したりも出来たのである


(横島君が西条君に協力するはずないじゃない。 あなたどれだけ冷たい態度で接したか自覚ないの?)

現在の横島と西条の関係は、令子という基軸を失ったまま憎しみの感情だけが残っていた

ある意味令子が間に入っていたからこそ、二人は過去に協力出来たのだ

その令子と決別した今、冷たく接した西条に横島が協力すると思う方がおかしい


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