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二年目の春・6

この夜女子寮の一室では木乃香がこの日教わったコッペパンの揚げパンのレシピをノートに記していた。

それは単純なレシピばかりではなく横島のアドバイスやその時に話した料理に関する豆知識まで細かく記されているもので木乃香にとっては何より貴重な財産とも言えるノートだ。

しかしそんなノートも残りページが僅かとなりそろそろ新しいノートが必要だなと思いつつ、木乃香はペラペラとページをめぐり積み重ねたレシピと想い出の多さに思わず笑みを浮かべる。


「どうしたの? 突然。」

「これ見るたびに毎日楽しかったなって改めて思うんよ。 それに明日はどんな料理を教わるんやろかってワクワクもするんや。」

真面目にノートに清書してる木乃香が突然ページめくりクスクスと笑いだしたもんだから同じテーブルで勉強していた明日菜はビックリして声をかけると、木乃香は本当に楽しそうな笑顔で理由を話す。

何だかんだといろいろあった日常は一年が過ぎた今も刺激と希望と幸福で彩られていた。

少し前には超鈴音の件で不安も抱えていた木乃香だが横島と一緒に居るだけで不安は少なくなり最近ではあまり気にならなくなっている。


「うーん、確かに楽しい毎日よね。 なんかいろいろ非常識に慣れてきたのはちょっと複雑だけど。」

「ええやん。 ウチはみんなでこうしてるのが一番ええと思う。 あとは横島さんがウチらにもうちょっと本音を見せてくれたら文句ないんやけど。」

「本音?」

「悲しい時は悲しいって言って欲しいんや。 それに美砂も前に言うてたけど横島さん我慢してるみたいやし。 それもウチはあんまり好かへん。」

楽しく幸せな日々が当たり前だったし優しく素晴らしい大人が周りに多かった木乃香は、奇しくもクラスメートであり友人でもあった超鈴音の裏切りにも思える魔法公開の件で世の中や人の怖さを曲がりなりにも体験したことで自分を取り巻く環境や大人達の有り難みを改めて理解していた。


「我慢って横島さんがそんなにしてる?」

「横島さん自分からは誰にも手を出さへんやん。 桜子に抱き付かれるとあんなに嬉しそうやのに。 理由はウチらのせいかもしれへんし違うかもしれへん。 でもウチはそういうのも含めてもっと横島さんと分かり合いたいんや。」

「手を出すって、まあね。 確かに横島さん高校生とか大学生とかに結構モテるのよね。 忙しいからって誤魔化してるけど、普通にデートくらいなら行ってもおかしくないのよね。 中にはあからさまに誘惑してる人も居るし。」

世の中の厳しさを知り己を見つめ直し始めた木乃香は突き詰めると結局横島のことを考える比重がどんどん増えていき、今年に入り魔法の秘密を知りエヴァという新たな女性が自分達の仲間になったせいか、最近ではあまり目にしなくなった横島の過去に対する違和感と横島と自分達の今後を少し真剣に考え始めている。

横島が何故特定の彼女どころか女性に対して一定以上踏み込まないのか木乃香はそこを知りたいと思い始めたらしい。

先日にはエヴァと桜子が水着も付けずに横島が入っていた露天風呂に乱入し桜子に至っては裸で遠慮なく抱き付いたと後で聞き流石に顔を赤らめて驚いたが、落ち着くと疑問として少女達の中で話題となったのはそこまでしても横島が何もせず終わったことだった。

ハルナなんかは有り得ないと驚愕していたが箱入り娘とも言える木乃香だって年頃であるし、耳年増なハルナのせいでそっち系の話や知識も結構聞いたことはある。

まあ木乃香自身も横島とそういう関係になりたいとか具体的に考えてる訳ではないが、遠慮や我慢に本音を隠されてるのではと思うと面白くないのが本音だ。

加えて修学旅行の時に美砂や円に横島への気持ちを改めて指摘されて以降は、夕映とのどかを含めて美砂達と千鶴と本音でいろいろ話をしつつある。

ただあやかだけは未だに横島への気持ちを認めてないので強制は出来ないし、女子寮に居ない刀子とエヴァやさやかとはまだそこまで話せては居ないが。

現状では大きな変化はないが高校時代から事実上足踏みしている横島と違い少女達は女性へと着実に歩みを進めていて、理想や綺麗事ばかりではない恋と愛を理解し求め始めていた。
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