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二年目の春・5

さてこの日は日曜なので出勤前に朝食を食べに来るお客は少なく朝は比較的暇であった。

相変わらず近所の年配者は朝から店に来ていたが、彼らは横島が相手をしなくても自分達で囲碁や将棋をしつつアナスタシアを待っているので手間が掛からなくていい。


「これキャラメルなん?」

「ああ、生キャラメルってやつだな。 昔貰ったことあるやつ作ってみたんだ。 多分北海道辺りで土産として作ってるはずだ。」

そんな横島であったがいつもと同じく仕込みから手伝いに来ていた木乃香とのどかを前に少し暇だったので、まだ作ったことのないスイーツを作っていた。

元の世界に居た頃に北海道の土産として貰った記憶がある物をなんとなく作ったのだが、木乃香達は知らないようで不思議そうに見ている。


「うわ~、溶けますね。」

「ほんまや。」

生クリームを多く加えることで柔らかく口の中で溶ける生キャラメルに、驚きの表情を見せるのどかと木乃香に横島は笑みを浮かべていたが一つ勘違いをしていた。

生キャラメルはこの年の数年後に生まれる物であってまだこの時代にはない物なのだが、そんな細かい事情を知るはずがない横島は木乃香とのどかに新しいスイーツを教えようと作ってしまったのだ。


「なになに? わたしもたべる!」

「美味しそうですね。」

そんな生キャラメルを味わう横島達であるが美味しい物を食べてることを本能で察知したタマモがさよと共に厨房に入って来ると、さっそく食べたいと騒ぎ出し試しにと作った生キャラメルはタマモやさよに加えて店に居合わせた常連にまでタマモが配ってしまった結果あっという間に無くなってしまう。


「最近はこんな物もあるんか。」

「昔のキャラメルは固かったがのう。」

常連の年配者なんかは柔らかく食べやすい生キャラメルに驚き最近は変わったとしみじみと感じていたが、結果的に生キャラメルがこの世界に生まれてしまっていた。

もちろん横島に他意はなく、横島自身はそれで商売をしようとかお客さんに出そうなんて考えてなかったのだが。


「評判がいいな。 ってか誰も知らんのは何故だ? こっちじゃ流行らなかったのか?」

「初耳ですよ。 いつ頃のことなんです?」

「いつだったかな。 元の世界の頃だし……。」

「もしかしてこの世界では流行る前なのでは?」

そしてその事にいち早く気付いたのはのどかであり、前に流行ったのになと首を傾げる横島に世界の違いを指摘すると横島の顔が青ざめていく。

なんとなく嫌な予感がした横島はすぐに元の世界の記録を調べて、元の世界で生キャラメルが生まれたのが数年後だった事を知ることになる。


「あかん、生キャラメルは封印だ。」

同じようにこの世界で生キャラメルが生まれ流行るかは別問題だが、誰かの手柄の横取りはしたくない横島は木乃香とのどかに生キャラメルを封印すると告げた。

レシピ自体はさほど特殊なものではないので自分達で作って楽しむ分にはいいが、店に出してしまうのは流石に良心が傷むのが本音だった。

すでに数人の常連には出してしまったが横島が試作品なんかを配るのは珍しくないので大丈夫だろうと思うことにする。

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