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二年目の春・5

「誕生日ね。」

一方この日誕生パーティーに参加している大人は横島とエヴァを覗けば刀子と高畑のみであったが、刀子はふと楽しげに騒ぐ少女達を眺めて誕生日について想いを馳せる。

思い返せば子供の頃に家族に祝って貰ったことや学生時代には神鳴流の仲間達に祝って貰ったことはあるが、二十歳を過ぎてからは別れた夫に結婚前に祝って貰った以外は忙しさもあり誕生日なんて特に気にしない生活を送っていた。

別れた夫や結婚生活に未練がある訳ではないが互いに忙しかったこともあり夫婦の時間が作れなかったことが離婚理由でもあるので、もう少し夫婦の時間を作っていたらと思わなくもない。

ただ横島のように日々の生活を目一杯楽しむ大人が世の中にどれだけ居るのだろうと思うと、少なくとも刀子の周りには他に見当たらないのが現実だ。

無論日々の生活に楽しみがないとは言わないが誰もが横島ほど自由には生きられないだろう。


「時代は変わるのかもしれないわね。」

家族や恋人や友人で誕生日を祝うのは取り立てて珍しくはないが、目の前の少女達には昔の自分の周りには居なかったタイプの大人である横島が居る。

子供は親の背中を見て育つと言うがそれは親のみではなく大人の背中を見て育つと言う方が適切だと刀子は思うし、少なくとも今この場に居る少女達は横島という大人を見て育っていた。

それは必ずしもいい面ばかりではないだろうが、少女達のような存在が新たな時代を作るのかもしれないとも思う。


ただ問題は決して少なくはない。

東西の魔法協会の問題は木乃香やあやかや千鶴にとっては他人事ではないし、他の少女達とて全くの無関係とは言えないだろう。

そして麻帆良と関東魔法協会はまだ横島や少女達を受け入れ順応するだけの余裕があるからいいが、関西にはそれだけの順応性や余裕があるようには刀子には思えなかった。

そこまで考えてふと横島に視線が向いた刀子は、横島が魔法世界のように関西も見捨てる選択肢を取る可能性について考え始める。

現状では東西協力が上手くいきつつあるのでそこまで深刻ではないが、長年時代の変化を受け入れて来なかった関西には変化を受け入れる土壌があまりない。

詠春と穂乃香が頑張っているので今は東西協力が進んでいるが言ってしまえば二人が抜けるとすぐに消え去るだろう。

高畑が魔法世界を完全に見捨てられないように刀子もまた関西は故郷であり完全に見捨てることは出来ない。

救いなのは近右衛門や詠春や穂乃香の努力もあり、まだ関西が魔法世界のようにどうしようもない状況にはなってないことだった。

この時刀子は一年前の自分ならばそんなこと考えもしなかったし、考える立場にもなかったのになと思い苦笑いが出そうになる。

だが現時点でも刀子はすでに自分が木乃香や横島に近すぎて関西の未来を左右しかねない立場になっていることを自覚していた。

このまま近右衛門や詠春に任せて見てるだけで自分はいいのだろうかと刀子はこれからのことを考え始める。

木乃香も居るし頼めば横島も関西を見捨てはしないだろうが、関西も守るべき伝統は守りつつ変わらねばならないところは変えねば未来はない。

願わくば横島や少女達の未来に自分も居て、その周囲には麻帆良のみならず関西も居て欲しいのが理想であり刀子は自分なりに出来ることがあるのではと考え始めることになる。


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